・・・「私が学校で要る教科書が買えなかったので、親仁が思切って、阿母の記念の錦絵を、古本屋に売ったのを、平さんが買戻して、蔵っといてくれた。その絵の事だよ。」 時雨の雲の暗い晩、寂しい水菜で夕餉が済む、と箸も下に置かぬ前から、織次はどうし・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・盗んだ品は買い戻して、返して来い」 豹吉は亀吉よりも次郎、三郎の方がびっくりするくらい、大きな声で怒鳴りつけた。「兄貴殺生やぜ」 と、亀吉はなぐられた頬を押えながら、豹吉に言った。「何が殺生や……?」「そうかテお前、・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・私は普通の語調にかえって、「佐伯君、僕に二十円くらいあるんだがね、これで制服と靴とを買い戻し給え。また、外形は、もとの生活に帰るのだ。葉山氏の家にも、辛抱して行き給え。わびしい時には、下宿で毛布をかぶって勉強するのだ。それが一ばん華やか・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・後に聞けば島田家では蔵書の紛失に心づいてから市中の書肆へ手を廻し絶えず買戻しをしていたというはなしである。 森先生の渋江抽斎の伝に、その子優善が持出した蔵書の一部が後年島田篁村翁の書庫に収められていた事が記されてある。もし翰が持出した珍・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
出典:青空文庫