・・・それは、時代の動きの他の極に立つものであったから、母としては彼女の資質の大きさ、感情の独自のあるがままの理解よりも却って狭く作られた精神の境涯に自分を留めたことになって、そこからつくられた苦しみを苦しんだという形ともなった。母のために、それ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・、その社会的な生活感情を等しくして結ばれていたが、その他の面では云わば各人各様で、或る作家は芸術至上を説き、或る作家は科学・機械文明との新しい結合で文学を見ようとし、或る人は新心理派へ眼を向け、作家の資質に従ってエロティシズム、グロテスクな・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ あれやこれやの理由から、孝子夫人の資質を貫く熱い力は、よりひろくひろくと導かれ得ないで、日常身辺のことごとと対人関係の中で敏感にされ、絶えず刺戟され、些事にも渾心を傾けるということにもなったのではなかったろうか。 二昔ほど以前の生・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・現実から学んで芸術を創造すべきことを主張した所謂写生文派の人々、子規、虚子、漱石、或は直接この流派に属したのではなかったが、森鴎外のような優秀な芸術的資質をもった作家まで、等しく自然主義文学の運動に対して必しも同感的でなかったことはまことに・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・ 坪内先生は非常に聰明な資質の先達者であった。正宗白鳥氏が先日、逍遙博士は文学の師であるばかりでなく生死に処する道を教えた方であるという感想を書いておられたが、私は坪内先生の一生をあるべきとこにあって完璧たらしめた先生の聰明、努力、達見・・・ 宮本百合子 「坪内先生について」
・・・女性によって書かれたこの二種の本は、業績の相異とか資質の詮索とかを超えて結局は人類がその時代に潜められている様々の可能を実現し、花咲き実らすためには、どのような良心と、精励とが生活の全面に求められているかということについて、男性の生涯へも直・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・即ち社会の「下から、群集に混って困苦と苦闘を経ながら飽くことのない天才の資質とをもって其を眺めた」バルザックが、複雑多岐な形態で各人に作用を及ぼしている社会的モメントをつきつめれば、それは二つのもの、色と慾とであることを観察し、更にこの二つ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・あらゆる大芸術家の重大な資質の一つは善良さと純潔な人間性であるということについて。「二世紀というものは権力に抗う人々が『自由意志』の怪しげな主義を築くために費された。更に二世紀というものは、自由意志の第一段の必然帰結たる信仰の自由の発達・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・などは、作者のアナーキスティックな資質は変らないが、戦時中彼女がこうむった抑圧の記録として、また中国捕虜のおそるべき運命の報告書として、強い感銘を与えるものであった。その後この作家が「地底の歌」という新聞小説の連載によってやくざの世界の描き・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・各人の人生と生活の経験を文学であらしめるものは、文学的才能などという、浅薄な偶然な資質ばかりではないと思う。人間性をゆすぶる様々の経験に対して、自分としてそれをどう感じ、理解し、その経験から何を獲て生きぬけて来たか、という諸関係について、本・・・ 宮本百合子 「婦人の生活と文学」
出典:青空文庫