・・・するとお民は赤坂の或待合に女中をしていたことがあると答えたので僕は心窃に推測の違っていなかった事を誇ったような事もあった。 だんだん心やすくなるにつれて、お民の身の上も大分明かになって来た。お民の兄は始め芸者を引かせて内に入れたが、間も・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・新橋赤坂辺の茶屋の座敷で、レコードの伴奏で裸体ダンスを見せる女があった。一時評判になって前の日から口を掛けて置かなければ呼んでも来られないというほどの景気であった。裸体を見せる女は芸者ではないが、商売上名義だけ芸者ということになっていたので・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・大人の言葉をつかう。赤坂の色街のところのそういう人達の心持とロシア人の生活との錯綜。 ○宣教師 独逸人 赤ら顔の髪なし。 友人の宝石を売ルタメに呼んだ。日露懇談会で知ったとき、フイリッポフに信仰談をした。フイリッポフ信仰よりパンが欲・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・竹中、元、実業界に居た男、大正九年の暴落でつぶれ、竹内のところでごろつき、会に入れて貰う。赤坂の芸者にひっかかった尻ぬぐいその他すっかりさせた男、段々隣保館で勢力を得て、今しきりに反竹内熱をたきつけて乗とろうとして居る。その男が、まあそ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・○国鉄と麻布三連隊の兵士 赤坂一レンタイと市電労働者の共同懇談会が持たれた。○青年印刷工 六十九銭ぐらい。 一人の仲間は、「活字中の漢字という漢字を知って居り」その人を先にたてて皆のあつまる会をつくり、会の金を出すためにその・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・ 三宅坂、赤坂見つけの桜 大正博覧会 Prince of Wells 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
・・・などと云う活字の下を、驚と、好奇心と相半ばした心持で読みなどし乍ら、「貸家、赤坂見附近」と云うような文字でも見つかると、心をあつめて、間数や家賃を読むのである。 始め、片町を見つける頃よりは、余程、貸家は出たらしい。一つは、あの頃の払底・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・勤めている或る週刊新聞社は、赤坂の電車通りに面して建っていた。水色のペンキで羽目板を塗り、白で枠を取った二階建ての粗末なバラックであった。階下が発送部で、階上が編輯室だ。誰かが少し無遠慮に階段を下りると、室じゅうが震えるその二階の一つの机、・・・ 宮本百合子 「街」
・・・次に赤坂の堀と云う家の奥に、大小母が勤めていたので、そこへ手伝に往った。次に麻布の或る家に奉公した。次に本郷弓町の寄合衆本多帯刀の家来に、遠い親戚があるので、そこへ手伝に往った。こんな風に奉公先を取り替えて、天保六年の春からは御茶の水の寄合・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・松泉寺と云うのは、今の青山御所の向裏に当る、赤坂黒鍬谷の寺である。これを聞いて近所のものは、二人が出歩くのは、最初のその日に限らず、過ぎ去った昔の夢の迹を辿るのであろうと察した。 とかくするうちに夏が過ぎ秋が過ぎた。もう物珍らしげに爺い・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫