・・・人民の一人一人を吊りあげることも出来ると威嚇した人権蹂躪制度とその施設が無力なものとさせられてゆく姿をうつしたこのニュース映画は、素朴な描写のうちに溢れる濤のような自由への渇望を語っていた。 そのような新しい潮におされて、まだ日本独特の・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・そのうち警察官の人権蹂躙事件五〇%。毎日新聞の社説に、この五〇パーセントが「二十五年には八〇%というおどろくべき数字をしめしている」「官憲による恐怖時代がまだ存在している」とかかれているのは誇張でない。最高検では、青少年の反社会的行為が、お・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・全的人間性の登場の可能に対する観念そのものさえ蹂躙しつつ、階級社会の時々刻々の現実生活はどのようにわれわれをゆがめ、才能や天分を枯渇せしめているかという憤ろしい今日の実際を、ローゼンタールの生活と文学における性格の研究の論文はくっきりと抉り・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・に、偏執する人々の心理の原因の一つは、つまり過去十何年もの戦時中、あまり無視され、蹂躙されつくした自分というものを、今こそ擁護し、自分の生きている価値を主張しようと奮いたつ感情であると思います。第二の原因は、そういう心もちがつよいのに比べて・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・その理由は、この事件の取調べは、検事側の威嚇と独断と術策によってすすめられたもので、人権は蹂躙された。したがって被告としては各自にとって事実無根の公訴をみとめることができないというのが、共通の趣旨であった。二十九歳の元検査掛の被告竹内景助が・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・義務を蹂躙する。そこに危険は始て生じる。行為は勿論、思想まで、そう云う危険な事は十分撲滅しようとするが好い。しかしそんな奴の出て来たのを見て、天国を信ずる昔に戻そう、地球が動かずにいて、太陽が巡回していると思う昔に戻そうとしたって、それは不・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・それは一つの強き主観の所有者が古き審美と習性とを蹂躪し、より端的に世界観念へ飛躍せんとした現象の結果であり効果である。して此の勇敢なる結果としての効果は、より主観的に対象を個性化せんと努力した芸術的創造として、新しき芸術活動を開始する者にと・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・余はオーストリアを蹂躙した」だが、云いも終らぬ中に、ナポレオンの爪はまた練磨された機械のように腹の頑癬を掻き始めた。彼は寝台から飛び降りると、床の上へべたりと腹を押しつけた。彼の寝衣の背中に刺繍されたアフガニスタンの金の猛鳥は、彼を鋭い爪で・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・かかる愛の爆発力は同じき理想の旗のもとに、最早や現実の実相を突破し蹂躙するであろう。最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それ・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・彼はその全興味を注いで、享楽を尊重するために、人間の尊貴と美とを蹂躙するようなものを書く。そこでは彼は悪と醜の讃美者である。しかも彼を悪人と呼び醜怪と呼ぶ者に対して彼は怒る。製作の上では価値を倒換しても、日常生活においてはその倒換を欲しない・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫