・・・ヴェスヴィオ行きの準備をして玄関へ出ると、昨日のポルチエーが側へ来て人の顔を見つめて顔をゆがめてそうして肩をすぼめて両手の掌をくるりと前に向けてお定まりの身振りをした。 ヴェスヴィオの麓までの馬車には年取った英国人の夫婦と同乗させられた・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
・・・例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計測的の大きさの比以上に廓大して描いたり、喜怒の感情の発現を誇張した身振りで示すがごときは、最も月並な慣用手段である。もう少し進んだのになると、鼻や小鼻の曲線のあるデリケートな抑揚をつかまえて、これを少しアクセ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ ずいぶんみんな堪えたのでしたがあんまりその人の身振りが滑稽でおまけにいかにも小学校の二年生に教えるように云うもんですからとうとうみんなどっと吹き出しました。私共の席から一人がすぐ出て行きました。「只今の比較解剖学からのご説はどうも・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・なるほど、現在有名になっている女優一人一人について見れば、容貌にしろ髪の色、声にしろ感情表現の身振りにしろ特長がなくはないのだが、男との相対において現われて来ると、性格的なものをはっきり生かそうというスター・システムの焦慮にもかかわらず、感・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・と云って、来た人には抱いて見せ、行った先では身振りまでして、話して聞かせた。 たまらなく可愛いので、やたらに抱くので、もう私と看護婦の手を覚えて、どんなに泣いて居ても、二人の内が抱くと、きっと泣き止む。 成丈、脊髄を曲げない様に・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ロアはアメリカの上層の貴族趣味に向って巧に自分のフランス人としての上流的身辺を仄めかしながら、所謂時の人々とその人々との会話の断片を捉えて、何か具体的めいた、重大な国家の事情や裏面に精通した人のように身振りして語っているのだが、よく読んでみ・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・武田麟太郎が市井の現実にまびれることを新しい人間性発見への小路としたのとは異って、広津和郎のこの思想は、いわば前者が現実にまびれゆくという自身の意図に我から壮とする身振りをもじっと眺めてゆこうとする態度である。けれども、この結論を急がぬ探究・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・現代のインテリゲンツィア作家は、自分が現実にどういう反応を示しているかということについて、自身の才気の身振りや、饒舌の自己催眠に眩惑されないだけの神経の勁さと真摯な探求心を求められていると思う。 本年三月号の『文芸』で森山啓氏と伊藤整氏・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・ほど前に、慶応の国文科をで、葛西善蔵、宇野浩二らに私淑し、現在では秋田県の女学校教師であるこの作家の特徴は、非常に色彩のつよい、芝居絵のような太い線で、ある意味での誇張とげてものの味をふりまきながら、身振り大きく泣き笑いの人生を描くところに・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・言葉の調子にしろ、身振りの癖にしろうまい。もとから紹介されてる人体力学とともに、これは確にメイエルホリド劇場の特徴の一つだ。「吼えろ! 支那」だって、帝国主義国の海軍士官たちが真に迫っていて、思わず中国のプロレタリアートと一緒にその横暴・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫