・・・ゆえに我が義塾においては、生徒の卒業に至るまでは、ただ学識を育して判断の明を研くの一方に力をつくし、業成り塾を去るの後は、行くところに任して、かつてその言行に干渉するなしといえども、つねにその軽率ならざるを祈り、論ずるときは大いに論じ、黙す・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・何気なく笑って、その人と談してはいましたが、私はひとりで烈しく烈しく私の軽率を責めました。実は私はその日までもし溺れる生徒ができたら、こっちはとても助けることもできないし、ただ飛び込んでいって一緒に溺れてやろう、死ぬことの向う側まで一緒につ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ 野宿第三夜(どうも少し引き受けようが軽率だったな。グリーンランドの成金がびっくりする程立派な蛋白石などを、二週間でさがしてやろうなんてのは、実際少し軽率だった。 どうも斯う人の居ない海岸などへ来て、つくづく夕方歩い・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 米国の婦人は主我的で、非家庭的で、軽率で感情的だと云う事が極度にまで強調されます。彼の前に米国の女性は愛し、尊むべき女人ではなくて或人の言を借りて云えば、単に“Female”であるに過ぎない、其も物質的な、金の掛る家畜だとまで酷評され・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ この温和な、無慾な男が有益な仕事をうまくさせようとして努力しているのに、周囲の誰も彼もがその仕事に対して軽率な冷淡な態度をとってそれを破壊させつつある有様はゴーリキイの心を痛めた。デレンコフの父親は宗教上のことから半狂人になった。弟は・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 川添のご新造は仲平贔屓だったので、ひどくこの縁談の不調を惜しんで、お豊にしっかり言って聞かせてみたいから、安井家へは当人の軽率な返事を打ち明けずにおいてくれと頼んだ。そこでお豊さんの返事をもって復命することだけは、一時見合わせようと、・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・極度に敬虔なるべき者に対して私は極度に軽率にふるまいました。羞ずかしいどころではありません。 私はこの事によって自分のもっと重大ないろいろな欠点を示唆されたように思いました。二 私は自分のイゴイズムと戦っています。イゴイ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・何という軽率だろう。もしそれが自分から出た事ならば、私はただ首を垂れるほか仕方がないではないか。私は自分の不足を憎んでも自分の運命を憎むべきでない。むしろ自分の不足のゆえに自分を罰した運命に対して心から感謝すべきである。 私は未来を空想・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫