・・・マーク・トゥウエンの諷刺は、その基調に何と云っても辛酸をなめつくした後に、新興のアメリカ社会で世俗の生活で安定をかち得たその作者らしい妥協、気やすめがある。ゴーゴリの作品にはそれがない。悲哀の底が抜けている。作者としてのゴーゴリは、わが心の・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・マルクス一家にとって辛酸な一八五〇年代が始まった。 五 不屈な闘志――ロンドン時代―― 身重なイエニーは肉体と精神との苦痛をこらえてロンドンにたどり着いた。三人の子供を連れて。そして、宝石のようなレンシェンをつ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・したがって、この引あげの辛酸な事実の歴史的背景となり悲惨の原因となっている日本の軍国主義や満州侵略、そこに巻きこまれた市民の不幸の意味などは、一切考えてみようとされていないのである。 これらの特徴は、どれもこのごろの記録文学の性格をそな・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ 今日の辛酸にやつれている母たる妻たちは、こういうものごとの考えかたはあまり遠大で、理想倒れだと思うかもしれない。それよりも、目前の一枚の冬着を、とはげしく求める感情もあるであろう。しかし、私たちは、よくよく思いひそめなければならないと・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ あなたがた革命の指導者たちと、根気づよい中国の人民とは、この日までに、幾多の辛酸とおびただしい犠牲を堅忍しました。それらは、人類の誇りとなる英雄的な行動でした。いま、わたしたちが、中国人民の勝利に対して衷心からのよろこびと友誼の感情を・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・再び狼の爪につかまれぬためには、変名して手紙を受とったり、住居を晦したり、辛酸をなめた。母親とベルニィ夫人の助けで一時は凌いだが、バルザックはこの破綻で「単に貧しい男となったのみではない。」「苦しい借金を免れ、母から借りた金を返すために生涯・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・浮世の辛酸をなめ、民衆としての苦労をした人々を、所謂貧すれば鈍する的事情から立たしめて、その辛酸と労苦との社会的意義を自覚させたのは何の力であったろうか。そして、その辛酸と労苦との意義を語ることに確信を与え、新たなる文学の実質としてその歴史・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・、第二世と云われるその子供たちの生活は、内外とも二つの国に挾まれる苦悩にみたされたものであることがわかるが、日本の文学が世界史の変動につれて将来大陸性をもつようになるとすれば、大陸生活を描く作家たちは辛酸を耐えて、文学の内的世代として移民生・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・現実の辛酸が我々を打ちのめしもするが又賢くもする通り、歴史の緊迫した瞬間、文学は一見迂遠に見えるが実は、ある時間が経つと最も豊富な形でその諸経験を広くは人類的な意味で各民族の文化の宝庫の中へたくわえるものである。 今日、そして明日の新し・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ 最近の十数年間、特に太平洋戦争がはじまってからの五年間にわたしたちの経験した辛酸の内容をつまびらかに観察すれば、最後のあがきにおいて以上の諸関係がどんな程度にまで亢進し、ついに破局したか、明瞭である。 日本の社会心理の最底辺にとっ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫