一 信吉は、学校から帰ると、野菜に水をやったり、虫を駆除したりして、農村の繁忙期には、よく家の手助けをしたのですが、今年は、晩霜のために、山間の地方は、くわの葉がまったく傷められたというので、遠くからこの辺にまで、くわの葉を買い・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・自から不自由の中に軌範の立ち籠って、政治の前衛をもって任ずるものは、自から異いますが、なるべく、多くの異彩ある作家が輩出して、都会を、農村をいろ/\の眼で見、描写しなければならぬと思います。 作家は、何ものにも囚われてはなりません。もし・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・彼等は、大学を捨てたばかりでなく、一切の都会的享楽から離れて、農村に走り、農奴と伍した。そして、自から耕牧して、彼等と共に、苦楽を分った。彼等の生活が正しいばかりでなく、愛するためには、身を以て殉ぜんとしたところに、真実さがなければならぬ。・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・大学出の青年、農村の青年たちの結婚の物質的基礎のことを考えると暗くならずにはいられぬ。この改革の努力を伴わずに理想だけを要求してもまだ通らない。しかしそれだからといって、社会改革ができるまでは、恋愛の理想をまげたり、低めたりしてもいいという・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ こんなのは、昨年の旱魃にいためつけられた地方だけかと思っていたら、食糧の供給を常に農村に仰がなければならない都会では、もっとすさまじいらしい。農村よりはよほどうまいものを食いなれている都会人には、恐らく外米は、痛くこたえることだろう。・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・五月一日に農村であったことである。 香川県は、全国で最も弾圧のひどい土地だ。第一回の普選に大山さんが立候補した。その時、強力だった農民組合が叩きつぶされた。そのまゝとなっている。 なんにもしない、人間を、一ツの警察から、次の警察・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ まあ、農村からひょっくり東京見物に出てきた、猫背の若年寄を想像せられたい。尻からげをして、帯には肥料問屋のシルシを染めこんだ手拭をばさげて居る。どんなことを喋って居るか、それは、ちょっと諸君が傍へ近よって耳を傾けても分らんかもしれん。・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・寒い冬の晩で、藁仕事をしながら一家の者が薄暗い電燈の下に集っている時、農村の話をし社会主義の話をしたものである。戸は閉めきってあったが、焚き火もしなければ、火鉢もなかった。で親爺に鼻のさきに水ばなをとまらせていたものだ。なんでも僕は、新聞記・・・ 黒島伝治 「小豆島」
全国の都市や農村から、約二十万の勤労青年たちが徴兵に取られて、兵営の門をくゞる日だ。 都市の青年たちは、これまでの職場を捨てなければならない。農村の青年たちは、鍬や鎌を捨て、窮乏と過労の底にある家に、老人と、幼い弟や妹・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・とか「農村の文化」とか、農村を都市に対立させて、農民は、農民独自の力によって解放され得るが如く考えている無政府主義的な単農主義者等の立場とは、最初の出発からその方向を異にしていた。農民生活を題材としても、その文学のねらう、主要なポイントは、・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
出典:青空文庫