・・・近年、西洋において学芸の進歩はことに迅速にして、物理の発明に富むのみならず、その発明したるものを、人事の実際に施して実益を取るの工風、日に新たにして、およそ工場または農作等に用うる機関の類はむろん、日常の手業と名づくべき灌水・割烹・煎茶・点・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・(徳川をはじめとして諸藩にても新に寺院を開基し、または寺僧を聘 また近時の日本にて、開国以来大に教育の風を改めて人心の変化したるは外国交際の刺衝に原因して、その迅速なること古今世界に無比と称するものなれども、なおかつ三十の星霜を費し、然・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ 書きつけて置きたいことは山ほどあり、しかも現実生活の展開は迅速で、革命に鉛筆を握らされた作家たちは、自分以上の力にもえたって仕事をした。書いた。革命の歴史的瞬間に全存在を引つかまれた作家たちは、自分が革命の情熱にとらわれた、そのとらわ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・問題は迅速に次々移って行きますしね、例えばソヴェト選挙の時にはまたそれに応じた本を見出してやらなければなりません。 ソヴェトではいかに文字が実際生活の理解、建設に必須な武器かということは、一ヵ月この驚くべく前進的で柔軟性に富んだ多面な新・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・互いの関係から云えば、主婦たちが迅速に計画的にそういう方策を立てて行動してゆく実際の力によって商人の従来の商人気質も脱皮されて行く訳だろう。 家庭購買組合も見たところ大きい規範で経営されてはいるけれど、各戸を実際にまわっている実務員が報・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 急激な社会の推移ということもつまりは人間と人間との意欲の交渉の、複雑激甚迅速な動きである。その意味では昨今の地球の呻きは人間ぽさに咽せるばかりであるわけだが、文学が、人と人とのいきさつとして益々多彩にその姿をつかまず、却って生物的・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・ しかし、作家たちめいめいが生きて仕事をしている真最中で、しかも時代はおそろしく迅速に展開しているようなとき、その相互的な関係の中で行われる作家個人の成長と時代の歴史的な消長との摩擦、融合の過程は恐ろしく複雑で、云ってみれば本人にもその・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・ 我々は、一度目の経験で、斯様に、一寸でも目ぼしいと思うような貸家の広告は、如何程迅速に人々の注意を牽き、又交渉されるかを覚えて居た。 朝八時頃新聞を見、本郷から下谷の其処まで行くうちに、もう十幾人目かの人と、すっかり話が纏って仕舞・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・СССР全経済組織は迅速に社会主義化され、個人営業の手工業者までが、集団的生産組合にまとめられつつある。 辻馬車の赤い輪と馬の蹄とは当然昔のような個人的利潤をひらき出さない。その上燕麦は高かった。ソヴェトの農村は五ヵ年計画の集団農場化で・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・彼の爪は再び迅速な速さで腹の頑癬を掻き始めた。頑癬からは白い脱皮がめくれて来た。そうして、暫くは森閑とした宮殿の中で、脱皮を掻きむしるナポレオンの爪音だけが呟くようにぼりぼりと聞えていた。と、俄に彼の太い眉毛は、全身の苦痛を受け留めて慄えて・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫