・・・これも風呂敷包を中結えして西行背負に背負っていたが、道中へ、弱々と出て来たので、横に引張合った杖が、一方通せん坊になって、道程標の辻の処で、教授は足を留めて前へ通した。が、細流は、これから流れ、鳥居は、これから見え、町もこれから賑かだけれど・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・いずれ川上の方の事だから高いには相違ないが、恐ろしい高い山々が、余り高くって天に閊えそうだからわざと首を縮めているというような恰好をして、がん張っている状態は、あっちの邦土は誰にも見せないと、意地悪く通せん坊をしているようにも見える位だ。そ・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・とすぐ通せん坊をされる、進退これきわまるとは啻に自転車の上のみにてはあらざりけり、と独りで感心をしている、感心したばかりでは埒があかないから、この際唯一の手段として「しかし」をもう一遍繰り返す「しかし……今度の土曜は天気でしょうか」旗幟の鮮・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
出典:青空文庫