・・・いや御通知いたしかねていたのです。半僧坊のおみくじでは、前途成好事――云々とあったが、あの際大吉は凶にかえるとあの茶店の別ピンさんが口にしたと思いますが、鎌倉から東京へ帰り、間もなく帰郷して例の関係事業に努力を傾注したのでしたが、慣れぬ商法・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・「追而葬式の儀はいっさい簡略いたし――と葉書で通知もしてあるんだから、いっそ何もかも略式ということにしてふだんのままでやっちまおうじゃないか。せっかく大事なお経にでもかかろうというような場合に、集った人に滑稽な感じを与えても困るからね」・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・ たった一軒の漁師の家がある、しかし一軒が普通の漁師の五軒ぶりもある家でわれら一組が山賊風でどさどさ入っていくとかねて通知してあったことと見え、六十ばかりのこの家の主人らしい老人が挨拶に出た。 夜が明けるまでこの家で休息することにし・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ 三日たって、県立中学に合格したという通知が来たが、入学させなかった。 息子は、今、醤油屋の小僧にやられている。 黒島伝治 「電報」
・・・だから、毎月、どっかの頼母子が、掛戻金持算の通知をよこして来る。それで、親爺の懐はきゅう/\した。 それだのに親爺は、まだ土地を買うことをやめなかった。熊さんが、どこへ持って行っても相手にしない、山根の、松林のかげで日当りの悪い痩地を、・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・「あれのところには通知の行くのが遅かったからね」 と言って見せて、宗太は一つある部屋の窓の方へ立って行った。何もかもひっそりと沈まりかえって、音一つその窓のところへ伝わって来なかった。「もうそろそろ夜が明けそうなものですなあ」・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・最近にもまた本郷の若い甥の一人がにわかに腎臓炎で亡くなったという通知を受けた。ちょうど、私の家では次郎が徴兵適齢に当たって、本籍地の東京で検査を受けるために郷里のほうから出て来ていた時であった。次郎も兄の農家を助けながら描いたという幾枚かの・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・あの山の中の、つまらぬ温泉宿に、あなたがおいでになったと女中から通知された時には、私は思わず、ひえっ! という奇妙な叫び声を挙げました。あなたもずいぶん滅茶なひとだと思いました。お葉書に書いてはございましたが、まさかと思って、少しもあてには・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・戦線から、ていねいな受取通知が来る。私はそれを読み、顔から火の発する思いである。恥ずかしさ。文字のとおりに「恐縮」である。私には、何もできぬのだ。私には、何一つ毅然たる言葉が無いのだ。祖国愛の、おくめんも無き宣言が、なぜだか、私には、できぬ・・・ 太宰治 「鴎」
・・・引越して来て、すぐにあなたは、年賀状を、移転通知を兼ねて三百枚も刷らせました。三百枚。いつのまに、そんなにお知合いが出来たのでしょう。私には、あなたが、たいへんな危い綱渡りをはじめているような気がして、恐しくてなりませんでした。いまに、きっ・・・ 太宰治 「きりぎりす」
出典:青空文庫