・・・その内に祖母は病気の孫がすやすや眠り出したのを見て、自分も連夜の看病疲れをしばらく休める心算だったのでしょう。病間の隣へ床をとらせて、珍らしくそこへ横になりました。 その時お栄は御弾きをしながら、祖母の枕もとに坐っていましたが、隠居は精・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・ 且つ仕舞船を漕ぎ戻すに当っては名代の信者、法華経第十六寿量品の偈、自我得仏来というはじめから、速成就仏身とあるまでを幾度となく繰返す。連夜の川施餓鬼は、善か悪か因縁があろうと、この辺では噂をするが、十年は一昔、二昔も前から七兵衛を知っ・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 翌晩も、また翌晩も、連夜の事できっと時刻を違えず、その緑青で鋳出したような、蒼い女が遣って参り、例の孤家へ連れ出すのだそうでありますが、口頭ばかりで思い切らない、不埒な奴、引摺りな阿魔めと、果は憤りを発して打ち打擲を続けるのだそうでご・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・水を恐れて連夜眠れなかった自分と、今の平気な自分と、何の為にしかるかを考えもしなかった。 家族の逃げて行った二階は七畳ばかりの一室であった。その家の人々の外に他よりも四、五人逃げて来ておった。七畳の室に二十余人、その間に幼いもの三人ばか・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記翰長は「院外運動などで総辞職しない」「再解散させても思う通りに・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
出典:青空文庫