・・・ 道の真中に突然赤い灯が輝き出して、乗合自動車が駐ったので、其方を見ると、二、三輌連続した電車が行手の道を横断して行くのである。踏切を越えて、町が俄に暗くなった時、車掌が「曳舟通り」と声をかけたので、わたくしは土地の名のなつかしさに、窓・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・と金字で書いた鉄門をはいると、真直な敷石道の左右に並ぶ休茶屋の暖簾と、奉納の手拭が目覚めるばかり連続って、その奥深く石段を上った小高い処に、本殿の屋根が夕日を受けながら黒く聳えている。参詣の人が二人三人と絶えず上り降りする石段の下には易者の・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・して見ると普通に私と称しているのは客観的に世の中に実在しているものではなくして、ただ意識の連続して行くものに便宜上私と云う名を与えたのであります。何が故に平地に風波を起して、余計な私と云うものを建立するのが便宜かと申すと、「私」と、一たび建・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・どこかで遠く、胡弓をこするような低い音が、悲しく連続して聴えていた。それは大地震の来る一瞬前に、平常と少しも変らない町の様子を、どこかで一人が、不思議に怪しみながら見ているような、おそろしい不安を内容した予感であった。今、ちょっとしたはずみ・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・の場合に「ならめ」等の結語を用いる例は万葉にもあるをや。二本の梅に遅速を愛すかな麓なる我蕎麦存す野分かなの「愛すかな」「存す野分」の連続のごとき夏山や京尽し飛ぶ鷺一つの「京尽し飛ぶ」の連続のごとき蘭夕狐のくれ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・元来生物界は、一つの連続である、動物に考があれば、植物にもきっとそれがある。ビジテリアン諸君、植物をたべることもやめ給え。諸君は餓死する。又世界中にもそれを宣伝したまえ。二十億人がみんな死ぬ。大へんさっぱりして諸君の御希望に叶うだろう。そし・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ アジアの近代の歴史は、苦しい隷属とそこから解放されようとする闘いの連続でした。印度をはじめとするアジアの諸国は、そのゆたかな天然の資源と、生産の発達が遅れている半封建的社会の条件を利用されて、ヨーロッパの資本主義の植民地または半植民地・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・帝国劇場が五日間連続して売切になったのは、劇場が立って以来始ての事だそうだ。そこで今日まで文壇がこの事実に対して、どんな反響をしているかと云うと、一般にファウストが汚涜せられたと感じたらしい。それは先ずファウストと云うものはえらい物だと聞い・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・砲車の轍の連続は響を立てた河原のようであった。朝日に輝いた剣銃の波頭は空中に虹を撒いた。栗毛の馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造って、潮のように没落へと溢れていった。 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・言いかえれば彫刻の連続である。 たとえば在来は、苦痛の時には激しい悲鳴をあげていた。しかし今は、内部に狂おしき苦痛がひそむ時にも外形は「痛ましさ」の像となって現われる。昔の荒々しい調子、鋭き叫び声は消え失せて柔らかい静けさに変わっている・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫