・・・元来家庭労働者とともに政治的には最も後にのこったものと認められていた家庭の主婦達が、この家屋の中まで進出して来た託児所 その教師には「しゃっちこばり」というあだながついていた。 彼はいつも膝まである長靴をはいて来た。そして入・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ かかる事情で、従来最高なものとされて来た純文学と通俗小説との関係は、様々に見直され、作品の実践で両者の混ぜ合わせが行われ、尾崎士郎、室生犀星、武田麟太郎諸氏の新聞小説への進出をも見た。が、引続いて起った長篇小説への要求、単行本発表への・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ かように文学として自主的な必然に立っていなかった農民文学のグループが、本来ならばますます描かれるべき農村状態の緊張の高まりと共に忽ち方向を転換して次の年には南洋進出の潮先に乗って海洋文学懇話会というものに変ったのは、まことに滑稽な悲惨・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・われて来たインフレ出版の現象は、急速な社会全般の情勢のうつりかわりとともにこれ迄の文化伝統が変動しつつあることの一つの相貌として、云ってみればこれ迄出版業者にとって未開拓の地であった女性の世界へ次第に進出して来たのだと思える。 豊田正子・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・ 昭和十二年七月に事変が勃発してから僅か二年の間にさえ、若い女性たちの重工業への進出は金属工業で男が一六パーセント増したのに対して女子四二パーセント増しとなっている。機械器具製造では男子二一パーセント増しに対して女子三〇パーセントという・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・特に電気工業、機械、鉱業へ婦人の進出はこの頃ソヴェト同盟の目立った現象だ。 社会主義社会で、つまり男女同一労働に対して同一賃銀を実施し、しかも現実的な母性保護が完全に行われるところでこそ、男女共学が本ものとして行われるのは自明なことだ。・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・この生きた関係は、現在の日本の社会感情や、前衛党とその外との知的関係のありかたのすこし前方に進出したものである。合法党として存在しはじめてわずか一年を経たばかりの日本の党が、よしんばまだ十分豊饒な文化性を溢れさせていないとして、また組織人の・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ヨーロッパ諸国で、この戦争のあとでは婦人が建設のすべての面に進出し、しかもそれらの婦人たちがこれからの社会をどうみているかといえば、ほとんどすべてが政党でいえば、「真中から左」を立ち場としているということにも、真実のよりどころがある。平和は・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・この新しい時代を代表するものは、政治化した土一揆や宗教一揆に現われているような民衆の運動、足軽の進出に媒介せられた新しい武士団の勃興、ひいては群雄の勃興である。ここではまず第一の民衆に視点を置いて、その中にどういう思想が動いていたかを問題と・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ 彼がもしこの土下座の経験を彼の生活全体に押しひろめる事ができたら、彼は新しい生活に進出することができるでしょう。彼はその問題を絶えず心で暖めています。あるいはいつか孵る時があるかも知れません。しかしあの時はいったひびはそのままにな・・・ 和辻哲郎 「土下座」
出典:青空文庫