・・・先ず荷物を預けんとて二人のを一緒に衡らす。運賃弐円とは馬鹿々々しけれど致し方もなし。楠公へでも行くべしとて出立たんとせしがまてしばし余は名古屋にて一泊すれども岡崎氏は直行なれば手荷物はやはり別にすべしとて再び切符の切り換えを求む。駅員の不機・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・ 労働法が出来たけれども、国鉄従業員が尤もな待遇改善を求めると、当局はそれを拒むことの出来ない代りに、忽ち、運賃値上げをして、人民の負担に転化する。逓信院の値上げにしても同様である。何十万人という従業員は、やっといくらか給料がよくなった・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ 生活必需品に対してそういう手当をする政府は、つい先頃、国鉄運賃大幅値上げをした。省線・都電の運賃値上げをして、地域によっては出もしないガス六倍、水道十二倍にすると云った。まさか、出ないガスと水道だから上ったところでメートル代だけです、・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・そしたら、国鉄の運賃は、飛び上った。昔から辛棒づよい社会勤労者の代表である逓信従業員が、生きなければならない、という共通の必要から、困難な対立に入った。逓信院では、ハガキ二十五銭、封書五十銭の値上げを考えているのである。理由は多額となった支・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫