・・・……消えるまで、失せるまでと、雨露に命を打たせておりますうちに――四国遍路で逢いました廻国の御出家――弘法様かと存ぜられます――御坊様から、不思議に譲られたでござります。竹操りのこの人形も、美しい御婦人でござりますで、爺が、この酒を喰います・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 毎年二月半ばから四月五月にかけて但馬、美作、備前、讃岐あたりから多くの遍路がくる。菅笠をかむり、杖をつき、お札ばさみを頸から前にかけ、リンを鳴らして、南無大師遍照金剛を口ずさみながら霊場から霊場をめぐりあるく。 この島四国めぐりは・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・が、この頃、私の地方の島で四国の遍路に巡る一日五六百人から千人近くの人々にも外米は評判が悪い。路々ぶつ/\小言を云いながら通って行くのを私も二三耳にした。そんな連中が、飲食店に内地米の稲荷ずしでも売っているのを見つけようものなら、忽ち売切れ・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
出典:青空文庫