・・・若き兵士たり、それから数行の文章の奥底に潜んで在る不安、乃至は、極度なる羞恥感、自意識の過重、或る一階級への義心の片鱗、これらは、すべて、銭湯のペンキ絵くらいに、徹頭徹尾、月並のものである。私は、これより数段、巧みに言い表わされたる、これら・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・あまりかわいそうだから、もう一匹別のを飼って過重な三毛の負担を分かたせようという説があってこれには賛成が多かった。 ある日暮れ方に庭へ出ていると台所がにぎやかになった。女や子供らの笑う声に交じって聞きなれない男の笑い声も聞こえた。「イー・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・強いられるとは常人として無理をせずに自己本来の情愛だけでは堪えられない過重の分量を要求されるという意味であります。独り孝ばかりではない、忠でも貞でもまた同様の観があります。何しろ人間一生のうちで数えるほどしかない僅少の場合に道義の情火がパッ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ 農民作家たちは、いつの間にか、こういう細々した農村生活の外部的、或は内面の特別性を、固定したものとして扱い、過重評価しはじめた。「ロシアの土」の偉大さを、社会主義社会建設のために、階級的方向にどう利用して行くべきかを作品の中で指示・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・一九四〇年以後の日本のすべての炭坑には婦人が入坑し、過重な労役に服してきました。若い勤労婦人は最も危険・有害なあらゆる生産部門においてさえ活動しました。 しかも、日本の軍事的権力によって特別な保護をうけていた企業家たちは、生産の大半を婦・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・『科学者と詩人』とは訳者の調子がわざわいしてやや甘たるいところが過重せられていると信じるが面白うございます。序論を一二頁よんだだけであるけれども。この次この人の『科学と仮説』を入れましょう。こちらの訳をしたひとは平林氏ではないから文体も・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・中間小説の作家が、その作品を希望しているような社会的な内容をもつ小説としてゆくためには、不自然なほど過重に性の興味をもりこんだ世相反映の創作方法とはちがった現実観察の角度と創作方法をもたなければならない。それは、どうして発見されるだろうか。・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 日本でジイドは、実に驚くべき過重評価をうけたのであるが、且て二十年近い昔、「狭き門」「背徳者」などが翻訳出版された時文学愛好者がアンドレ・ジイドなる名に払った注意は決して甚大なものではなかった。ジイドの日本における奇妙な繁栄は、丁度四・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 消極の極で暮して来た、否暮させられて来た、日本婦人に対して、生きて弾む生命を持って居るこちらの婦人の価値は、種々な形成に於て或時は余りに過重され、又或時には余りに価値以下に観られて居ると思います。其がどちらの場合に於ても、ロング、エス・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・最後の一、二ページで、作者は、亮子にほとんど過重な内的容積をもり込んでいるのであるが、「近頃どんな映画を見ても演出を見ても『なんだここが見せ場か』『ここが山か』と案外その見せ場や山が大したものでないのにガッカリしている」だが「こんなことは何・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫