・・・著名な科学者の一代の大論文を読んで感心したあとで、その人のその論文を書くまでの道筋を逆にたどってそれまでのその人の著述を順々に古いほうへと読んで行くと、最初に感心させられたものが、きわめて平凡なあたりまえの落ち着き所であるとしか思えなくなっ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ それでも事件の展開が簡単でなくて、一つの山から次の山へと移って行く道筋が容易には観客の予測を許さない、というだけのはたらきのあるのは、近ごろのこうしたアメリカ映画に普通である。はじめからおしまいの見すかされているような映画ばかり作る日・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・それ以来、この流のいずこを過ぎて、いずこに行くものか、その道筋を見きわめたい心になっていた。 これは子供の時から覚え初めた奇癖である。何処ということなく、道を歩いてふと小流れに会えば、何のわけとも知らずその源委がたずねて見たくなるのだ。・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・私の通る道筋は、いつも同じように決まっていた。だがその日に限って、ふと知らない横丁を通り抜けた。そしてすっかり道をまちがえ、方角を解らなくしてしまった。元来私は、磁石の方角を直覚する感官機能に、何かの著るしい欠陥をもった人間である。そのため・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・この位置は打者の球の多く通過する道筋なるをもって特にこの役を置く者にして短遮の任また重し。第一基は走者を除外ならしむるにもっとも適せる地なり。短遮等より投げたる球を攫み得て第一基を踏むこと(もしくは身体の一部を触走者より早くば走者は除外とな・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・それ故、女らしさ、という一つの社会的な意味をもった観念のかためられる道筋で女が演じなければならなかった役割は、社会的には女の実権の喪失の姿である。 女らしさは一番家庭生活と結びついたものとしていわれているかのようでありながら、そういう観・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・電車のルートの工合で、動き廻る道筋を制御される我々は、東京の他の沢山の隅々を、何か特別なきっかけのない限り外国に在る街同然知らないで過ごす通り、牛込、神楽坂などに縁遠かった。 けれども、思い出して見ると、神楽坂は、さすがに去年までまるで・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ そういうのがバルザックの考えかたの道筋なのであった。 私達はここで一つの意味ふかい手紙の数行を思い起すのである。一九三三年一月に蔵原惟人が獄中から或る友人に宛てて書いた手紙の中にバルザックのことがトルストイとの対比においてふれられてい・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・話によると、命がけで、不幸な人々の屍を見ないでは一町の道筋も歩けない程だ。経験のある人々は、哨兵に呼び止められた時の応答のしぶりを説明する。徒歩で行かなければならない各区への順路を教える。何にしても、夜歩くのは危険極ると云うのに、列車は延着・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・この塑像の様式がどういう道筋を通って推古仏の様式として現われて来たかについては、わたくしは何をいう権利も持たないのであるが、しかし証拠はなくとも、ここに推古仏の源流を認めてよいのではなかろうか。 ところで、そうなると、どうしてこういう様・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫