・・・ 女は妻の遠縁に当たるものの次女であった。その関係でときどき自分の家に出はいるところからしぜん重吉とも知り合いになって、会えば互いに挨拶するくらいの交際が成立した。けれども二人の関係はそれ以上に接近する機会も企てもなく、ほとんど同じ距離・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・夫婦は相談して、おしまの遠縁の娘とその娘に似合の若者とを養子にした。夫婦養子をしたわけだ。元気者ではあるが年とった者ばかりの家へ、極若い男は兵役前という夫婦が加ったから、生活は華やかになった。勇吉もおしまも、老年の平和な幸福が数年先に両手を・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ それでもまさかそんな事も出来ないから遠縁の親類へいつもの注文通り、 二十二三の少しは教育のあるみっともなくないのをたのんでやった。 も一方先に頼んだ方のが無いと悪いと思ってであった。 父親が帰ってから、さきは、泣いた様・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・この遠縁の若者は、輜重輪卒に行って余り赤ぎれへ油をしませながら馬具と銃器の手入れをしたので、靴をみがくことまで嫌いになって帰って来た男である。 午後になって、私は家を出かけ、もよりのバスの停留場に立った。この線はふだんでも随分待たなけれ・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ 尾世川は尚子の遠縁に当る人で、彼女の紹介で藍子は知ったのであった。「――あの人名がわるいんですよ」「へえ――誰にきいて」「だって、あんな規知なんて名つけるから、逆さになっちゃったんでしょう」「馬鹿仰云い!」 二人は・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ 日夜妻と母親との口論に圧しつけられながら食堂のテーブルに製図板をのせて、ニージニの商人の倉庫だの店の修繕だのの図を引いている主人は、遠縁のゴーリキイに、約束どおり製図の修業をさせようとした。耳に鉛筆を挾み、長い髪をした主人が、或る日、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫