・・・を成して一般の性と為り、政治上に於て君々たらざるも臣々たらざるを得ずと言うに等しく、婦人の道は柔和忍辱盲従に在り、夫々たらざるも妻々たらざるを得ずとて、専ら其一方の教に力を籠めて自から封建社会の秩序に適合せしめ、又間接に其秩序を幇助せしめた・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その政事の然るを見て、教育法もまた然らんと思い、はなはだしきは数十百年を目的にする教育をもって目下の政事に適合せしめんとするが如きは、我が輩は学問のためにも、また世安のためにもこれを取らざるなり。・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・もしもこの限界を越ゆるときは、徳教の趣を変じて輿論に適合し、その意味を表裏・陰陽に解して、あたかも輿論に差支なきの姿を装い、もってその体をまっとうするの実を見るべし。蛮夷、夏を乱だるは聖人の憂うるところなれども、その聖人国を蛮夷に奪われたる・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・その発展的段階に適合する組織として「ラップ」は狭くなったし、この指導部はブハーリン的な段階論を固守していたことによって批判されたのである。 作家同盟の成員が種々の層からなりたっているということは、作家同盟という一組織の内部でそれら様々の・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・皮相の形式的な適合性をもって来たが、摂取と創造との力は薄弱であった。 現実の一例として、再び自分の手紙の場合について考えて見よう。 ここに、一人の知識人が、理性に立った社会判断の故に治安維持法にふれて、自由を奪われ、獄中生活をし・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・着物もつまりは、その生活の二つの基調に適合した変化が必要だし、その必要をみたすことが衣服の最低の条件なのだろうと思う。 簡単服という言葉はホーム・ドレスを意味する日本名だが、日本の女性たちの生活は、働き着として朝身につけたその簡単着を、・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・そして、テエヌはそのことこそ「彼の文体の癖がわれわれの生活の習慣と適合し、作家たるバルザックが公衆によって認められる所以」であると結論しているのである。 謂わば非難囂々たるバルザックの文体も、根本は当時の社会生活の特質によって来らしめた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・その荷風の見かたに適合した何人かの「婦女」がかつて彼の「後堂に蓄え」られたこともあったのである。 私が、荷風のロマンティシズムを常識的な本質であるとするのは、女のロマンティックな見かたそのものに現れている以上のようなあり来りの特徴にもよ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・その若衆のしらじらしい、どうしても本の読めそうにない態度が、書見と云う和製の漢語にひどく好く適合していたが、この滑稽を舞台の外で、今繰り返して見せられたように、僕は思ったのである。 そのうち僕はこう云う事に気が附いた。しらじらしいのは依・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・個所などを除く時、トルストイの芸術観に適合する作物となるそうである。現代徳育の理想もまた八犬士の境地である。この理想はよい。よいには相違ないがこの理想によって「虚栄を根本より覆せ」と叫ぶものは過激だとお叱りを蒙る。「不徳の人間を社会より放逐・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫