近年新聞紙の報道するところについて見るに、東亜の風雲はますます急となり、日支同文の邦家も善鄰の誼しみを訂めている遑がなくなったようである。かつてわたくしが年十九の秋、父母に従って上海に遊んだころのことを思い返すと、恍として隔世の思いが・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・僕は図らずもこの両者に接して、現代の邦家を危くする二つの悪例を目撃し、転時難を憂るの念に堪えざる如き思があった。ここに此の贅言を綴った所以である。トデモ言うより外に仕様がない。年の暮も追々近くなる時節柄お金を取られるのは誰しもいやサ。昭・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・そして後、新たなる魂をもって邦家のために生き抜こうと決心しています。未だに過去の労働運動をもって喋々するものがあるならば、それらは徒に事を構えて能事終れりとなす階級であって、かようなことはいわゆる革命家に任せておけばよいと考える。今や己の愚・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫