種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落があります。 春になると、北上の河谷のあちこちから、沢山・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。そして現在も決して偏見がとりのぞかれたとはいえない。松本治一郎氏の天皇制に対するたたかいとパージがよくその消息を告げている。 今日の大学は、どのようなアカデミアであ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・そして、この担い棒をかついだ女村民の部落には村ソヴェトの赤い旗が雪の下からひるがえっている。 景色が退屈だから、家に坐ってるような心持でいちんち集団農場『集団農場・暁』を読んだ。 一九二八―二九年、ソヴェト生産拡張五ヵ年計画が着手さ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・一九一八年ごろ日本におけるアイヌ民族の歴史的な悲劇に関心をひかれその春から秋急にアメリカへ立つまで北海道のアイヌ部落をめぐり暮した作者にとって公然と行われた朝鮮人虐殺は震撼的衝撃であった。亀戸事件、大杉事件どれ一つとっても権力の野蛮と惨虐が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・となった山間のK部落の自作農らが、更に戦争の軍事費負担を加重される。軍部がその部落に二百円の強制献金を割り当てた。自作農らはついに共同墓地の松の木を伐ってそれを出すことに決議したが、昭和二年の鉱山閉鎖以来共同植付苅入れをしている「やま連」と・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・これも自然主義的なリアリズムの手法であり、部落の人々のゆがめられる人間性を主題としていたと思います。 いま作品の名をおもい出せませんが赤穂義士の仇討に対してそれを唯封建的な忠義の行為と見ず、浪士たちの経済的事情やその他の現実的いきさつを・・・ 宮本百合子 「心から送る拍手」
・・・親ゆずりの靴を履いた足音を静かに立てて、彼方の部落へ姿を消して仕舞います。インディアンが、永劫の秋に住して居るような心持に比べて、黒人は、何と云う陽気さでございましょう。 私は、鼻の丸い、体の大きい、正直な黒人が好きでございます。彼等と・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
アイヌの部落も内地人の影響を受けて、純粋のアイヌの風俗はなくなって行きますが、日高国の平取あたりに行ってみると、純粋のアイヌの気分を味う事が出来ます。然し単にアイヌと申しても、北海道全体に渡っての彼等の部落には、各々に特色・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・ 榎南謙一 特殊部落に恐るべき悪臭をふきつける火葬場移転要求をして、二年も闘っているところへ指導に行った若い全会の闘士と、それを支持する少年等、やがてその村をおそった嵐について書かれ、実感のこもった、描写もある。しかし、この部落の闘争・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・ 己は静かな所で為事をしようと思って、この海岸のある部落の、小さい下宿に住み込んだ。青々とした蔓草の巻き付いている、その家に越して来た当座の、ある日の午前であった。己の部屋の窓を叩いたものがある。「誰か」と云って、その這入った男を見・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫