・・・いつか私は「朝、眼をさましてから、床の中でぐずついているような男は、配偶者としては、だめである」 という意味の横光さんの言葉を読んで、どきんとしたことがあるが、実は私は横光さんのいわゆるだめな男なのである。私はどんなに寝足りた時でも、眼・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・それはその病気は医者や薬ではだめなこと、やはり信心をしなければとうてい助かるものではないこと、そして自分も配偶があったがとうとうその病気で死んでしまって、その後自分も同じように悪かったのであるが信心をはじめてそれでとうとう助かることができた・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ 私が早く自分の配偶者を失い、六歳を頭に四人の幼いものをひかえるようになった時から、すでにこんな生活は始まったのである。私はいろいろな人の手に子供らを託してみ、いろいろな場所にも置いてみたが、結局父としての自分が進んでめんどうをみるより・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ どうしてその婦人のことが、こんなに私たちの間にうわさに上ったかというに、十八年も前に亡くなった私の甥の一人の配偶で、私の子供たちから言えば母さんの友だちであったからで。かつみさんといって、あの甥の達者な時分には親しくした人だ。あの甥は・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・あるいは突然銃声が聞こえて窓ガラスに穴をあける、そこでカメラが回転して行って茂みに隠れた悪漢に到着するといったような、いわゆる非同時的な音響配偶によっていろいろの効果が収め得らるるのである。「西部戦線」の最後の幕で、塹壕のそばの焦土の上に羽・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・との配偶によってのみ生み出され得べき特産物であった。吾々は彼の生涯の記録と彼の全集とを左右に置いて較べて見るときに、始めて彼の真面目が明らかになると同時に、また彼のすべての仕事の必然性が会得されるような気がする。科学の成果は箇々の科学者の個・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・わたくしは生涯独身でくらそうと決心したのでもなく、そうかといって、人を煩してまで配偶者を探す気にもならなかった。来るものがあったら拒むまいと思いながら年を送る中、いつか四十を過ぎ、五十の坂を越して忽ち六十も目睫の間に迫ってくるようになった。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・子なきが故に離縁と言えば、家に壻養子して配偶の娘が子を産まぬとき、子なき男は去る可しとて養子を追出さねばならぬ訳けなり。左れば此一節は女大学記者も余程勘弁して末段に筆を足し、婦人の心正しければ子なくとも去るに及ばずと記したるは、流石に此離縁・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・然るに日本に於ては趣を異にし、男子女子の為めに配偶者を求むるは父母の責任にして、其男女が年頃に達すれば辛苦して之を探索し、長し短し取捨百端、いよ/\是れならばと父母の間に内決して、先ず本人の意向如何を問い、父母の決したる所に異存なしと答えて・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・で天に事うるなどのこともあらんなれども、これは神学の言にして、我輩が通俗の意味に用うる道徳は、これを修めんとして修むべからず、これを破らんとして破るべからず、徳もなく不徳もなき有様なれども、後にここに配偶を生じ、男女二人相伴うて同居するに至・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫