・・・ 行って送ってあげようと云っているうち、私はきょうの用事を思い出しついでに一つふろ敷包みをこしらえてそのまま林町へ来ました。配膳室のドアをわざとコトコト叩いたら、内の連中は時間が時間だし何が来たのかと一どきにこっちを見ている。そこへ私が・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ そう思うと、眠ってすごした今日の午前中がまことにもったいない。 母が居ないので外へ出るわけにもならず、静かなのを幸、何か書いたり、読んだりして居る。 配膳室の箱の中に、今朝中にもって来た「おかちん」がまっ白い体をよこたえて居る・・・ 宮本百合子 「午後」
・・・ 台所との間には、どんなに小さくても配膳室があった方がよろしいでしょう。給仕をするのに、一々、大きな扉の開閉をせず、配膳室との境に、適当な大きさのハッチをつけ、台所で料理出来たものは、彼方側から其処の棚にのせ、給仕人が、此方から、部屋を・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
小さい妹の、激しい泣き声に目をさましたのは、彼れ此れもう六時であった。 三時頃に一度お乳を遣った丈だったので、空おっぱいをあずけたまま、先(ぐお乳を作りに配膳室へ出て行った。 寝間着のお引きずりのまま、二人が腫れぼ・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 玄関の敷居を跨いだ時から心に湧いた素直さで、自分は何気なく配膳室と台所との境の硝子戸を押しあけた。「今日は!」「まあ、お嬢様!」 まつが、懐しさの満ち溢れた声を出す。 彼方を向いて居た母上は、素早く此方を振向いた。そし・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・二 本堂の若者達は二人の姿が見えなくなると、彼らの争いの原因について語合いながらまた乱れた配膳を整えて飲み始めた。併し、彼らの話は、唐紙の倒れた形容と、秋三の方が勝味であったと云うこと以外に少しも一致しなかった。が、この二人・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫