・・・ 半蔵門の方より来たりて、いまや堀端に曲がらんとするとき、一個の年紀少き美人はその同伴なる老人の蹣跚たる酔歩に向かいて注意せり。渠は編み物の手袋を嵌めたる左の手にぶら提灯を携えたり。片手は老人を導きつつ。 伯父さんと謂われたる老人は・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・そこで、深夜の酔歩がはじまる。水甕のお家をあこがれる。教養人は、弱くてだらしがない、と言われている。ひとから招待されても、それを断ることが、できない種属のように思われている。教養人は、スプーンで、林檎を割る。それにはなにも意味がないのだ。比・・・ 太宰治 「豊島與志雄著『高尾ざんげ』解説」
・・・国民学校教師、野中弥一、酔歩蹣跚の姿で、下手より、庭へ登場。右手に一升瓶、すでに半分飲んで、残りの半分を持参という形。左手には、大きい平目二まい縄でくくってぶらさげている。 奥田せんせい。やあ、いるいる。おう、菊代さんもいる・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫