・・・ 何しろ当夜の賓客は日本の運命を双肩に荷う国家の重臣や朝廷の貴紳ばかりであった。主人側の伊井公侯が先ず俊輔聞多の昔しに若返って異様の扮装に賓客をドッと笑わした。謹厳方直容易に笑顔を見せた事がないという含雪将軍が緋縅の鎧に大身の槍を横たえ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・しかし、国民に懺悔を強いる前に、まず軍部、重臣、官僚、財閥、教育者が懺悔すべきであろうと思った。「一億総懺悔」という言葉は、何か国民を強制する言葉のように聞こえた。 私は終戦後、新聞の論調の変化を、まるでレヴューを見る如く、面白いと思っ・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・景憲の祖父小幡山城は、信玄の重臣で、『軍鑑』の著者に擬せられている高坂弾正とともに川中島海津城を守っていた。弾正の没した時には景憲はようやく七歳であったが、事によると弾正の面影をおぼろに記憶していたかもしれない。景憲が弾正に仮託してこの書を・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫