・・・ど日本国中が空襲を受けているまっさいちゅうに、あなたたちのとめるのも振り切って、睦子を連れてまるで乞食みたいな半狂乱の恰好で青森行きの汽車に乗り、途中何度も何度も空襲に遭って、いろいろな駅でおろされて野宿し、しまいには食べるものが無くなって・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・出掛けた為にとうとう楢ノ木大学士の、野宿ということも起ったのだ。三晩というもの起ったのだ。 野宿第一夜四月二十日の午后四時頃、例の楢ノ木大学士が「ふん、この川筋があやしいぞ。たしかにこの川筋があやしい・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
神奈川県足柄郡下足柄村十三部落 演習中の野宿反対 人家に迷惑をかけず宿やにとめろ 宿舎のない演習なんかやめたがいいんだ。○江東地区の一人、暗闇夜、自転車をとばして地区のデンタンを電車・乗合自動車のうしろ・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・ 来年まで? さ来年まで?旅 神様が御召しになる日までつづくんですよ。 もう少したつと貴方方も旅に御出かけにならなけりゃあならないんです。 野宿もしなければならず、川も渡らなければならない事をいつまでも覚えていらっしゃい・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・どうもそこらでいい所を見つけて、野宿をなさるよりほか、しかたがありますまい。わたしの思案では、あそこの橋の下にお休みなさるがいいでしょう。岸の石垣にぴったり寄せて、河原に大きい材木がたくさん立ててあります。荒川の上から流して来た材木です。昼・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・「今宵は野宿するばかりじゃ」「急ごうぞ」「急ぎゃれ」これだけの応答が幾たびも試験を受けた。「馬が走るわ。捕えて騎ろうわ。和主は好みなさらぬか」「それ面白や。騎ろうぞや。すわやこなたへ近づくよ」 二人は馬に騎ろうと思ッて、近づく群・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫