・・・帽子の徽章にしたって僕等のは金モールになってるからね……ハヽ、この剣を見よ! と云いたい処さ」横井は斯う云って、再び得意そうに広い肩をゆすぶって笑った。「そうか、警部か。それはえらいね。僕はまたね、巡査としては少し変なようでもあるし、何・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状が状だから出る訳に行きゃしねえ。 するとお前さん、大将が私の前までおいでなすって、お前にゃ単た一人の子息じゃったそうだなと、恐入った御挨拶でご・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・ 立派な金モールをつけたふくろうの大将が、上手に音もたてないで飛んできて、柏の木大王の前に出ました。そのまっ赤な眼のくまが、じつに奇体に見えました。よほど年老りらしいのでした。「今晩は、大王どの、また高貴の客人がた、今晩はちょうどわ・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・署長さんは立派な金モールのついた、長い赤いマントを着て、毎日ていねいに町をみまわりました。 驢馬が頭を下げてると荷物があんまり重過ぎないかと驢馬追いにたずねましたし家の中で赤ん坊があんまり泣いていると疱瘡の呪いを早くしないといけないとお・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・衣料関係の労働は、こういう大量の既製品製作ばかりではない。金モール細工をする人、刺繍をする人、さけた布地をつぐ専門家、大体それは女の仕事であった。或は、立って働くには不便な不具の男の仕事とされた。アンデルセンの「絵のない絵本」の一番初めの話・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ ガラガラと戸をあけて金モールをつけた背の高い司法主任が入って来た。片手でテーブルの上に出してある巡邏表のケイ紙に印を押しながら、看守に小声で何か云っている。顔の寸法も靴の寸法も長い看守は首を下げたまま、それに答えている。「ハ。・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 何々区ピオニェール分隊がどっしり重い金モールの分隊旗を先頭にクフミンストル・クラブの広間を行進して来た。 右、左! 右、左、止れ! 分列。中央から十二三歳のピオニェール少女がつかつかと演壇にのぼった。茶色の演壇上の赤い襟飾・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・すべての人物が着実に現実的に描かれているかといえば、そうではない。金モール内職のベットがマルヌッフのサロンでは、俄然ダイアモンドのような輝きを発揮しはじめたり、奇怪な老婆がいきなり登場したり、ユロ将軍の最後の条などは、明らかに前章に比してな・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 経済的には貧乏であったらしい話で、明治政府に勤めるようになってから、祖父は金モール服で宮中へ参内し、娘である若い母は人力車で華族女学校へ通っていながら、体格検査の時栄養不良という評をもらった程であったと、よく私に話した事がありました。・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・ 夕飯をたべてから、わたしたちはホテルの帳場へ行った。金モールのおしきせをきた男が、帳場の中に立っている。その男に聞いた。「明日、メーデーのデモンストレーションはどこであるか知っていますか」 金モールのおしきせは丁寧な調子で、・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫