・・・ 海老屋では、家事を万事とりしきってしているという年寄り――五十四五になっている先代の未亡人――が会った。 金庫だの箪笥だのを、ズラリと嵌め込みにした壁際に、帳面だの算盤だのをたくさん積み重ねた大机を引きつけて、男のような、といって・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・その頃の工場には政党も、協同組合も相互扶助金庫もなければ、どんなアジテーションもプロパガンダも行われなかった。」十六歳だったシャポワロフは、原始キリスト教の理想を実現して、貧富の相異が消せるかと思ったのであった。 ゴーリキイがカザンで、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ その建物全体がそのまま金庫みたいな外観をもっていた。窓に金色の楯に王冠をかぶった獅子と馬とが前脚をかけた例の皇帝紋章が打ってある「大英宝石商会」である。 続いて堅牢な石の外壁に沿って走り乗合自動車は非常な雑踏のまっ只中に止る。そこ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫