・・・親戚の家を居候して歩いたり下宿やアパートを転々と変えたりして来たためか、天涯孤独の身が放浪に馴染み易く、毎夜の大阪の盛り場歩きもふと放浪者じみていたので、自然心斎橋筋や道頓堀界隈へ出掛けても、絢爛たる鈴蘭燈やシャンデリヤの灯や、華かなネオン・・・ 織田作之助 「世相」
・・・「ドイツ鈴蘭。」「イチハツ。」「クライミングローズフワバー。」「君子蘭。」「ホワイトアマリリス。」「西洋錦風。」「流星蘭。」「長太郎百合。」「ヒヤシンスグランドメーメー。」「リュウモンシス。」「鹿の子百合。」「長生蘭。」「ミスアンラアス・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・それから菊の話と椿の話と鈴蘭の話をした。果物の話もした。その果物のうちでもっとも香りの高い遠い国から来たレモンの露を搾って水に滴らして飲んだ。珈琲も飲んだ。すべての飲料のうちで珈琲が一番旨いという先生の嗜好も聞いた。それから静かな夜の中に安・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・うまいぞ、うまいぞ、鈴蘭なんかまるでパリパリだ」 風が来たので鈴蘭は、葉や花を互いにぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。 ホモイはもううれしくて、息もつかずにぴょんぴょん草の上をかけ出しました。 それからホモイはちょっと立・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ 王子は向こうの鈴蘭の根もとからチクチク射して来る黄金色の光をまぶしそうに手でさえぎりながら、「十力の金剛石ってどんなものだ」とたずねました。 野ばらがよろこんでからだをゆすりました。「十力の金剛石はただの金剛石のようにチカ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・ 小さい鈴蘭の束をさしたのもいる。 前日大群衆に揉みぬかれた都会モスクワと人とは、くたびれながらも、気は軽い。そう云う風だ。 店はしまっている。 物売も出ていない。 午後になると往来はだんだん混みはじめ、芸術座前の狭い通・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
出典:青空文庫