・・・しかし魔術とか錬金術とか、occult sciences の話になると、氏は必ずもの悲しそうに頭とパイプとを一しょに振りながら、「神秘の扉は俗人の思うほど、開き難いものではない。むしろその恐しい所以は容易に閉じ難いところにある。ああ云うもの・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・ルネッサンスは、近代科学の黎明ではあったけれども、錬金術師のフラスコと青く光る焔とは、まるでその時代の常識に、真黒くて尻尾のある悪魔を思いださせた。魔法の汁で恋のまことが狂わせられるということもないといえないこととして、シェクスピア時代の観・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・昔錬金術というものがあって今日の人の目はそれが科学でなかったことを知っているのであるが、それなら何人の努力の成果に立って、きょうの科学は錬金術の非科学性を明らかにして来たのであったろう。決して決して錬金術師達の口伝からではなかった。錬金術が・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
出典:青空文庫