・・・のずから他種族にも波及し、士農工商、ともに家を重んじて、権力はもっぱら長男に帰し、長少の序も紊れざるが如くに見えしものが、近年にいたりてはいわゆる腕前の世となり、才力さえあれば立身出世勝手次第にして、長兄愚にして貧なれば、阿弟の智にして富貴・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ラクシャンの第四子はしょげて首を垂れたがしずかな直かの兄が弟のために長兄をなだめた。「兄さん。ヒームカさんは血統はいいのですよ。火から生れたのですよ。立派なカンランガンですよ。」ラクシャンの第一子は尚更怒って・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 謙吉さんというのは母の長兄で、アメリカへ行っていて、帰ったら程なく気が変になった。田端の白梅の咲いている日当りよい崖の上に奥さんと暮していて、一日じゅう障子の前に座り、一つ一つと紙に指で穴をあけて、それを見て笑っているという気違いであ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・或る箇人、例えば、父、良人、長兄などと云う一人の力に縋って、その人の庇護、その人の助力、その後援によって、一族円満に、金持もなければ貧しい者もない風で暮すのを理想とするよりは、もう一歩、人生に対して積極であると思います。先ず自己を、次に自己・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 両親の死後、彼女の新たな保護者となった長兄は生憎、許婚者の父とは政敵の関係にあって、その反感から、どうしても二人の結婚を許可しようとはしなかったそうです。 そこで、当時の意向では、ほんの当分の方便として、彼女は従来の生活をすっかり・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・たとえ長兄の妻、弟の妻が子供たちとともに逃げて行くような実家をもたないときでも。 こういうことは、日本の「家」の義理にしばられる女のやりかたではない。少くとも兄嫁が家にのこっているとき、次弟の妻が自由に行動するというようなことは普通には・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫