・・・実は、婆々どのの言うことに――やや親仁どのや、ぬしは信濃国東筑摩郡松本中での長尻ぞい……というて奥方、農産会に出た糸瓜ではござらぬぞ。三杯飲めば一時じゃ。今の時間で二時間かかる。少い人たち二人の処、向後はともあれ、今日ばかりは一杯でなしに、・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・例えば私の下宿に一日遊んでる時でも、朝から夜る遅くまでも俥を待たして置いた。長尻の男だからドコへ行っても長かったが、何処でも俥を待たして置いたから、緑雨の来ているのは伴待や玄関や勝手で長々と臥そべってる緑雨の車夫で直ぐ解った。緑雨の車夫は恐・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・の小説にしないためにはどんなスタイルを発見すればよいのだろうかと、思案に暮れていた矢先き、老訓導の長尻であった。 けれども律儀な老訓導は無口な私を聴き上手だと見たのか、なおポソポソと話を続けて、「……ここだけの話ですが、恥を申せばか・・・ 織田作之助 「世相」
・・・それは殆ど毎日のよう、父には晩酌囲碁のお相手、私には其頃出来た鉄道馬車の絵なぞをかき、母には又、海老蔵や田之助の話をして、夜も更渡るまでの長尻に下女を泣かした父が役所の下役、内證で金貸をもして居る属官である。父はこの淀井を伴い、田崎が先に提・・・ 永井荷風 「狐」
・・・こうした長尻の客との対坐は、僕にとってまさしく拷問の呵責である。 しかし僕の孤独癖は、最近になってよほど明るく変化して来た。第一に身体が昔より丈夫になり、神経が少し図太く鈍って来た。青年時代に、僕をひどく苦しめた病的感覚や強迫観念が、年・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
出典:青空文庫