・・・淫祠の興隆は時勢の力もこれを阻止することが出来ないと見える。 行手の右側に神社の屋根が樹木の間に見え、左側には真暗な水面を燈火の動き走っているのが見え出したので、車掌の知らせを待たずして、白髯橋のたもとに来たことがわかる。橋快から広い新・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・日本ではキリスト信者が戦争を阻止しなかった事実によってゆらいでいるのである。今日、聖母マリアの信仰を美しい言葉で語る人がいる。しかし現代の世紀にピエタのマリアでないほかのマリアがどこの世界にあり得るだろうか。ピエタのマリアを死と破壊の肯定者・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・マルヌの戦闘が始まってドイツ軍の攻撃は阻止された。 二人の娘たちはまだブルターニュにいた。マリアは彼女たちに向って、この新しい希望を語り「小さいシャヴァンヌに物理学の勉強をさせなさい。あなたはもしフランスの現在のために働けないとしたらフ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・これらのものは過去の社会制度、組織、または生れながらにして与えられた性的関係――これは日本の女だけかも知れないが――女の個性の充分の発達を阻止しつつあるからではないのでしょうか。 この芸術に専念する力を阻止するもの、今それをデリケートな・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・男性が長い間の内に女性に加えた圧迫は、彼女等の発達を阻止して仕舞いました。其でありながら其の原因を蒔いた者が、女性の無智を侮蔑するのは、丁度自分の背後を自らの剣で刺すようなものではございますまいか、恐るべき因果でございます。女性が無言の裡に・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・侵略的な戦争強行に抵抗して、現実にそれを阻止する力もないのに、ひとりよがりでじたばたするから、つかまったり、いじめられたりするのだ、と思われる傾きがあった。治安維持法はなるほど野蛮だが、その野蛮な法律がある以上、それにひっかかることをするな・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・よくソヴェトの教育方針では個性の発育が阻止されるだろうという人がある。 勿論教育の基礎的方針は一斉に、学問と生産とを結びつけた共産主義教育というものをやっている。その中で個性がどうなるかという問題だ。個性の尊重というのは、要するにどうい・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 一体、なぜこのように自分の進路は、いつもいつも阻止されなければならないのだろう。 彼女は畏怖と失望に混乱した心持で、その断れ目もなく続いている牆壁を観察し始めたのである。 そして、これは、お前達を不仕合わせな目に合わせないため・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・勇造の父親が、息子に学問を許さなかった心持、生意気になると、憤激をさえもってそれを阻止した心持、そこには何があったのだろう。 この作家の少年時代の好学心の具体化は常に父親のそういう態度との挌闘をもって、苦学の実力でもって結果的に闘いとら・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・この現実のままでは空文に終る結婚と離婚の自由を、真実に社会的責任に裏づけられたものとするために、私たちが試みるすべての生活改善の努力を、阻止しようとしたり、抑えようとしたりする権力をも、私たちは肯定しないのである。〔一九四八年四月〕・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫