・・・この稿を草する半にして、曙覧翁の令嗣今滋氏特に草廬を敲いて翁の伝記及び随筆等を示さる。因って翁の小伝を掲げて読者の瀏覧に供せんとす。歌と伝と相照し見ば曙覧翁眼前にあらん。竹の里人付記〔『日本』明治三十二年四月二十三日・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
この集には、一九三七年、三九年、四〇年の間にかいた十篇の小説と亡くなった父母について記念のための随筆二篇が収められている。 一九三七年と云えば、中国への侵略戦争を拡大しながら日本の内部のあらゆる部面に軍事的な専制が強力・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ 中断されたこの時期に、評論集としては、『昼夜随筆』『明日への精神』『文学の進路』などが出版されている。『文学の進路』のほかの二冊の評論集にも、文学についてのものがいくらかずつ収められていた。 この選集第十一巻には、四十二篇の文芸評・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・このひとの随筆を折々よみ、纏めて杏奴さんの文章をも読み、私はこれらの若い時代の人々が文章のスタイルに於て、父をうけついでいるのみならず、各自の生活の輪が、何かの意味で大きかった父という者の描きのこした輪廓の内にとどめられていることを痛感した・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・「昼夜随筆」「乳房」現代日本文学全集中「中條百合子集」文芸家協会々員、日本ペン倶楽部会員、評論家協会々員〔一九四〇年一月〕 宮本百合子 「「現代百婦人録」問合せに答えて」
・・・こうやってかいていればいくらだって書いて、随筆幾つか分の手紙をかいてしまいそうです。私たちが暮して間もなくあなたは、私がどんな手紙をかくかしらと云っていらしったことがあったが、いかが? 私の手紙は。私の手紙には私の声が聞こえますか? 私のこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・と問うと、貸本屋は随筆類を推薦する。これを読んで伊勢貞丈の故実の書等に及べば、大抵貸本文学卒業と云うことになる。わたくしはこの卒業者になった。 わたくしは初め馬琴に心酔して、次で馬琴よりは京伝を好くようになり、また春水、金水を読み比べて・・・ 森鴎外 「細木香以」
『青丘雑記』は安倍能成氏が最近六年間に書いた随筆の集である。朝鮮、満州、シナの風物記と、数人の故人の追憶記及び友人への消息とから成っている。今これをまとめて読んでみると、まず第一に著者の文章の円熟に打たれる。文章の極致は、透明無色なガラ・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・我々は寺田さんの随筆を読むことにより寺田さんの目をもって身辺を見廻すことができる。そのとき我々の世界は実に不思議に充ちた世界になる。 夏の夕暮れ、ややほの暗くなるころに、月見草や烏瓜の花がはらはらと花びらを開くのは、我々の見なれているこ・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
・・・新片町や飯倉片町の家は、借家であって、藤村の好みによった建築ではないが、しかしああいう場所の借家を選ぶということのなかに、十分に藤村の好みが現われているのである。随筆集の一つを『市井にありて』と名づけている藤村の気持ちのうちには、その好みが・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫