・・・ その理由は、各三角点から数十キロないし百キロの距離にある隣接三角点への見通しがきかなければならないからである。それだから、三角測量に従事する人たちは年が年じゅう普通の人はめったに登らないような山の頂上ばかりを捜してあちらこちらと渡って・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・それではほとんど唯一の有意義な方法と考えられるのは、現在日本人と隣接する民族の国語との関係を捜す事である。 こういう立場からすれば例えば土佐の地名を現在あるいは過去の日本語で説明しようとするよりは、むしろこれらの地名とアイヌ、朝鮮、支那・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ただ日本はその国土と隣接大陸との間にちょっとした海を隔てているおかげでシベリアの奥にある大気活動中心の峻烈な支配をいくらか緩和された形で受けているのである。 比較的新しい地質時代まで日本が対馬のへんを通して朝鮮と陸続きになっていたことは・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ そうかと言って、自分でこのような大問題をどうにかしようという非望を企てるわけにも行かないわけであるが、それでもただやみがたい好奇心から、余暇あるごとに少しずつ、だんだんに手近い隣接国民の語彙を瞥見する事になり、それが次第次第に西漸して・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・そうして得たあらゆる隣接観念の世界に対して、以上の淘汰整理をもう一ぺん行ない、そうして生き残った若干の結果の中から試みに「第二次の付け句」を構成して、それを再び「所定の前句」に対照してみるのである。そのようにして、第三次、第四次の付け句を作・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 桜花は上野の山内のみならず其の隣接する谷中の諸寺院をはじめ、根津権現の社地にも古来都人の眺賞した名木が多くある。斎藤月岑の東都歳事記に挙ぐるものを見れば、谷中日暮里の養福寺、経王寺、大行寺、長久院、西光寺等には枝垂桜があり、根津の社内・・・ 永井荷風 「上野」
・・・けれども我が木造の霊廟は已にこの間も隣接する増上寺の焔に脅かされた。凡ての物を滅して行く恐しい「時間」の力に思い及ぶ時、この哀れなる朱と金箔と漆の宮殿は、その命の今日か明日かと危ぶまれる美しい姫君のやつれきった面影にも等しいではないか。・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・地図の上で指されるそれらの地区は本郷区のぐるりのどこかに隣接してはいてもうちのある林町界隈までは距っていた。心配は直接本郷あたりが襲撃されることではなくて、思いがけず大規模の被害が生じたときその真中に安全な本郷、またはこの辺が、逃げ場のない・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫