・・・ 古着屋の田中の新ちゃんはすでに若い嫁をもらっており、金助の抱いて行った子供を迎えにお君が男湯の脱衣場へ姿を見せると、その嫁も最近生れた赤ん坊を迎えに来ていて、仲よしになった。雀斑だらけの鼻の低いその嫁と比べて、お君の美しさはあらためて・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ と云って頬っぺたの雀斑をさわった。そしたら、はつは、乱暴にくびをふってわたしの指をはらいのけ、どうせ、はつはお母さまのようにきれいじゃありませんよ! と、わたしを自分のそばからつきのけた。そう云いながらぐんとつきのけた。その感じからはつが・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・ 野良日にやけて、雀斑が見えるようになった顔を沈痛にふせた。「瀬川はそれでいいかもしれないけれども――」 瀬川夫婦の友人に玉井志朗という男があった。大学が同期で、学内運動の先頭に立っていた秀才であり、万事目に立つ男だったのが、つ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ その叫びで、十三の痩せて雀斑だらけのアーニャは、生え際まで赧くなった。彼女は憤ったように垂髪を背中の方へ振りさばいて、叔母を睨んだ。彼女は、リボンのかわりに叔母の裁ち屑箱から細い紫繻子の布端を見つけ出した。彼女はそれを帽子を買って貰え・・・ 宮本百合子 「街」
・・・でっぷりよく肥えた顔にいちめん雀斑が出来ていて鼻の孔が大きく拡がり、揃ったことのない前褄からいつも膝頭が露出していた。声がまた大きなバスで、人を見ると鼻の横を痒き痒き、細い眼でいつも又この人は笑ってばかりいたが、この叔母ほど村で好かれていた・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫