・・・衆庶の力を集めてこれを政府となしまたは会社と名づけ、その集まりたる勢力を以て各個人の権を束縛し、以てその自由を妨ぐるものなり。この勢力を名づけて政府の御威光または会社の力といい、この勢力を以て行う所の事を名づけて政府の事務または会社の事務と・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・みんなは驚いてそっちへ行こうとしますと、今度はそこらにピチピチピチと音がして煙がだんだん集まり、やがて立派ないくつかのかけらになり、おしまいにカタッと二つかけらが組み合って、すっかり昔の貝の火になりました。玉はまるで噴火のように燃え、夕日の・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・小さな子どもらはみんな集まりました。「お早う。」先生はちらっと運動場を見まわしてから、「ではならんで。」と言いながらビルルッと笛を吹きました。 みんなは集まってきてきのうのとおりきちんとならびました。三郎もきのう言われた所へちゃんと・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ それからはもう毎日毎日子供らが集まりました。 ただ子供らの来ないのは雨の日でした。 その日はまっ白なやわらかな空からあめのさらさらと降る中で虔十がただ一人からだ中ずぶぬれになって林の外に立っていました。「虔十さん。今日も林・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・勇吉の近所で青年団の集まりがあった。村の暮しは単調で、冬はなお更ものうい。よい機会さえあれば、男はみな酒を飲みたがる。青年団の集まりなど申し分ない口実だ。多勢集まり、けんかはしない約束をして飲み始めた。ああ、実際村の者は酔うとよくけんかをす・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・なぜなら、きのうまで、文学青年と呼ばれる人々はいわば彼等作家たちのまわりに集まり動いて作家たちの身辺を飾るそれぞれの花環を構成していたのであるから。その生きた花環の大小が文壇における作家の重みを暗に語るものでなかったとはいえないのである。・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・然しながら、舞台での友代の味はやはり何と云っても本間教子のもので、特に、第三幕第一場の、初めて友代が国婦の班長になって会議へ出た報告を、工場の女を集めてやっている集まりの場面の空気など、どうも中本氏が脚本としてそこを描いたときのあと、教子が・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に集まり、妃を孤立させるために相人を利用して新王を遠い地方へ送り出してしまう。守り手のない妃のところへは武士をさし向け、妃を山中に拉して首を切らせる。そうして、ここにも首なき母親の哺乳が語ら・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それは平時二重橋前に集まり、また行幸啓のとき路傍に立っている人々の行為と、なんら異なったものでない。それは我々の経験によれば、警衛であるよりもむしろ「取り締まられる」立場である。刑事のごとき特殊の技能を持ったものでなければ、警衛としてはなん・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・ 食事がすんでしばらくすると、ぼつぼつ若い連中が集まり始めた。木曜日の晩の集まりは、そのころにはもう六、七年も続いて来ているので、初めとはよほど顔ぶれが違って来ていたであろうが、その晩集まったのは、古顔では森田草平、鈴木三重吉、小宮豊隆・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫