・・・例えば労働者の集団に対しても、分りやすい講演をやって聞かせるとある。そんな風であるから、ともかくも彼が教育という事に無関心な仙人肌でない事は想像される。 アインシュタインの考えでは、若い人の自然現象に関する洞察の眼を開けるという事が最も・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 色彩をぬきにして浮世絵というものを一ぺんばらばらにほごしてしまうと、そこに残るものは黒白のさまざまな切片といろいろの形状をした曲線の集団である。こうしてほごした材料を一つ一つ取り出して元の紙の上にいろいろに排列してみる。するとそこにで・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・すなわち、浜べで無数の砂利が相打ち相きしるように無数の蝗の羽根が轢音を発している、その集団的効果があのように聞こえるのではないかと思われる。そういえば丸鋸で材木をひく時にもこれに似た不規則な轢音の急速な断続があるのである。 この蝗の羽音・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・の意味からいうと、本筋のストーリーよりもあのおおぜいの女学生の集団の中に現われる若いドイツ女性のケックハイト、デルブハイトといったようなものの描写の中に若干の真実の表現があるようで、見方によってはむしろそのほうに興味を引かれ同時にいろいろの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・たとえば大写しのヒロインの目の瞳孔の深い深い奥底からヒロイン自身が風船のように浮かび上がって出て来たり、踊り子の集団のまん中から一人ずつ空中に抜け出しては、それが弾丸のように観客のほうへけし飛んで来るようなトリックでも、芸術的価値は別問題と・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・レヴューでは人間の集団で作った斑点や線条が舞台の上で離合集散いろいろの運動をする。あの斑点や線条の運動はなんの意味だかちっともわからない。しかしなんだかおもしろい。このレヴューからあらゆる不純なものをことごとく取り去ってしまったもの、ちぐは・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・分子の集団から成る物体を連続体と考えてこれに微分方程式を応用するのが不思議でなければ、色の斑点を羅列して物象を表わす事も少しも不都合ではない。 もう少し進んで科学は客観的、芸術は主観的のものであると言う人もあろう。しかしこれもそう簡・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・しからばあらゆる大学教授の学殖はすべて同一であるかというに、そういう事は不可能であるが、同じ物理学の中でもそれぞれの方面にそれぞれの権威があってこれらの人々の集団が一つの理想的な権威団を形成すると考えてよい。この権威の財団法人といったような・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・しかしグリムの方則のような簡単明瞭なものは大陸で民族の大集団が移動し接触する時には行なわれるとしても、日本のような特殊な地理的関係にある土地で、小さな集団が、いろいろの方面から、幾度となく入り込んだかもしれない所では、この方則はあるにはあっ・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・今ではさすがに解消して、住民は何所かへ散ってしまったけれども、おそらくやはり、何所かで秘密の集団生活を続けているにちがいない。その疑いない証拠として、現に彼らのオクラを見たという人があると。こうした人々の談話の中には、農民一流の頑迷さが主張・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
出典:青空文庫