・・・と此処まで云いて今更の感に大粒の涙ハラハラと、「雑兵共に踏入られては、御かばねの上の御恥も厭わしと、冠リ落しの信国が刀を抜いて、おのれが股を二度突通し試み、如何にも刃味宜しとて主君に奉る。今は斯様よとそれにて御自害あり、近臣一同も死・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・古いながら具足も大刀もこのとおり上等なところで見るとこの人も雑兵ではないだろう。 このごろのならいとてこの二人が歩行く内にもあたりへ心を配る様子はなかなか泰平の世に生まれた人に想像されないほどであッて、茅萱の音や狐の声に耳を側たてるのは・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・貧、富、男、女、四騎手の雑兵となって渦巻く人類からその毒牙を奪う叱咤である。愛である。かかる愛の爆発力は同じき理想の旗のもとに、最早や現実の実相を突破し蹂躙するであろう。最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。その各自の熱情に従って・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫