・・・ 九月六日 一昨日からだんだん曇って来たそらはとうとうその朝は低い雨雲を下してまるで冬にでも降るようなまっすぐなしずかな雨がやっと穂を出した草や青い木の葉にそそぎました。 みんなは傘をさしたり小さな簑からすきとおるつ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 心の隅に起った目に見えるか見えないの雨雲を無理にもはてしなく押し拡げて、降りそそぐ雨にその心をうたせる事を何の考えもないうちにして自らの呼び起した雨雲の空が自然の空の全部と思いなして居る人達だ。 そうして千世子は頭の友達に満足は出・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
○西側の腰高窓の床の間よりに机を出して坐った。そこからは灰色の雨雲が走る空の下に 頂を濃い霧につつまれた小高い山とその手前の樹木の茂った丘陵とが見晴せた。狭い田圃をへだてたこちら側は 山陽線海岸まわりの幾条もの線路になってい・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
出典:青空文庫