・・・ ――ああ、電灯の。 漸く奴には分ったんだ。 ――あれが落ちるほど揺ったかなあ。 医者は感に堪えた風に言って、足の手当をした。 医者が足の手当をし始めると、私は何だか大変淋しくなった。心細くなった。 朝は起床と言って・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・お金はぼんやりして、広間の真中に吊るしてある電灯を見ていた。女中達は皆好く寐ている様子で、所々で歯ぎしりの音がする。 その晩は雪の夜であった。寝る前に手水に行った時には綿をちぎったような、大きい雪が盛んに降って、手水鉢の向うの南天と竹柏・・・ 森鴎外 「心中」
・・・ * * * 電灯の明るく照っている、ホテルの広間に這入ったとき、己は粗い格子の縞羅紗のジャケツとずぼんとを着た男の、長い脚を交叉させて、安楽椅子に仰向けに寝たように腰を掛けて・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ゆるい呼吸の起伏をつづけている臍の周囲のうすい脂肪に、鈍く電灯の光が射していた。蒲団で栖方の顔が隠れているので、首なしのようにみえる若い胴の上からその臍が、「僕、死ぬのが何んだか恐くなりました。」と梶に呟くふうだった。梶は栖方の臍も見た・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫