・・・さあ御面倒でも雇いにいらっしゃって下さいまし。くどいようで失礼ではございますが、女を内へ送ってやる時には、いつでも一番余計に馬の附いている馬車を連れて来るものだと云うことをお忘れにならないようにね。さあ、いらっしゃいましよ。(男首を・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・だが、そこに横たわった変化について、理論的形式をとってより明確な妥当性を与えなければならないとなると、これは少なからざる面倒なことである。先ず少くとも一応は客観的形式なるものの範疇を分析し、主観的形式の範疇分析をした結果の二形式の内容の交渉・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・それだから向うへ着いて幾日かの間は面倒な事もあろうし、気の立つような事もあろうし、面白くないことだろうと、気苦労に思っている。そのくせ弟の身の上は、心から可哀相でならない。しかしまたしては、「やっぱりそうなった方が、あいつのためには為合せか・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・ 晩年の露伴先生に対しては、小林勇君が実によく面倒を見ていた。先生もおそらく後顧の憂いのない気持ちがしていられたことと思う。 小林君の話によると、先生は最後に呵々大笑せられたという。わたくしはそれが先生の一面をよく現わしていると思う・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫