・・・その兵は石に腰をかけながら、うっすり流れ出した朝日の光に、片頬の面皰をつぶしていた。「第×聯隊だ。」「パン聯隊だな。」 江木上等兵は暗い顔をしたまま、何ともその冗談に答えなかった。 何時間かの後、この歩兵陣地の上には、もう彼・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。 作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしよ・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・しばらく私のすがたを見つめているうちに、私には面皰もあり、足もあり、幽霊でないということが判って、父は憤怒の鬼と化し、母は泣き伏す。もとより私は、東京を離れた瞬間から、死んだふりをしているのである。どのような悪罵を父から受けても、どのような・・・ 太宰治 「玩具」
出典:青空文庫