・・・その見とおしに向って、一定の希望をつなぎ、常識に順応し、自身をよくしてゆくこと、ひとに使われるもの、命令をされるもの、夜昼よく働いて主人の昼寝を安らかならしめるために、よい者としての自分の前途を明るく眺めることは、はたして彼ら少年にとってた・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・米国の箇人的教育は、各種の箇性を重んじながら、其の功利主義の伝統的暗示、或は宣伝に依て、箇人的気質が、公衆の不文律に順応して行ける程度の寛和、或は弛緩を加えて居ります。従って、群集の各人は、箇性の力に明かな局限を認める事に馴れ、其の局限の此・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・〔欄外に〕母となる性の特質、男にある浄きものへの憧れ、女に娼婦型母型 二つあるように云うが、男の人の要求が大体その二つに別けられるので、女の方は、それと順応して、一方ずつの特性を強調するのではないの。 男は一人で二つ持つ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・経済的文化的現実に即して観察すれば全く大衆の一員でありながら、知識人的意識とでもいうようなものの残像で観念の上では自分たちのインテリゲンツィア性を自意識しながら、実際の結果としては大衆のおくれた底辺に順応しているような現象がある。良心的、進・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・無責任に変転される境遇に、批判なく順応するように何年間か強いて来たのであった。日本人が今日、当然もつべき一個人としての品位と威厳とを身につけていないことを外国に向って愧じるならば、それは、現代日本の多数の人々を、明治以来真に人格的尊厳という・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・日本の娘のおどろくような順応性で、国際的モードといえば、世界中どこでもという意味を理解して、自分もそれにおくれまいと願う。 国際的という表現は、どんな素朴な心にでも、それは自分の国の内ばかりでなく、よその国々の内においても、という内容で・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・わたしが立候補というような当面の便宜に役立たず創作の仕事をつづけ、また特定の性格に順応しないことが他の党員作家のために有害だという理由でしょうか。それとも私の文学活動を全体として階級的立場から評価することは有害であるというわけでしょうか。・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・の新鮮な感動や人間的活動の美しさを記憶している夥しい人々は、ここにも自然に対して知慧ふかく順応しつつその条件を人間生活の豊富化のために積極的にとらえて行く活力の詩を感じたことであったろうと思う。 ところがあの新聞記事を読んで、こんな成功・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その場合、列をつくっている一人一人の心持は、その儀式にかなった様式に順応している面で統一されているわけであろう。ふだんのままのその一人一人の心理の全立体面まるのままではなくなっている。 起きるときから寝るときまで列で暮す兵隊は、一つの目・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・そして、我知らず、恐ろしいほどたっぷり女性の中にある順応性によって、対象を観察するより速い直覚的順応作用を起す。けれども、それ等の自分の内部外部の経過をちっとも明瞭に意識しないように出来ている、或は癖のついている女性は、従ってその現象に自分・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫