・・・いろいろ打ち合わせも順調に運び、わざとばかりの結納の品も記念に取りかわしました。もはや期日の打ち合わせをするほどにこの話は進んできています。とうさんのことですから、いっさい簡素を旨とするつもりです。生活を変えるとは言っても、加藤さんに家へ来・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・ それにしても、筆執るものとしての私たちに関係の深い出版界が、あの世界の大戦以来順調な道をたどって来ているとは、私には思えなかった。その前途も心に懸った。どうかすると私の家では、次郎も留守、末子も留守、婆やまでも留守で、住み慣れた屋根の・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・その半面、経済的な社会生活の現実では、その激しい衝動を順調にみたしてゆく可能が奪われているから、虚無的な刹那的な官能のなかに、生存を確認する、というようなデカダンス文学が生れた。封建的な人間抑圧への反抗ということも、理由とされているが、それ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・体もお通夜できょうは背中が痛いが、大体は順調ですから御安心下さい。この二階から紅葉した楓の梢が見られます。上林辺はきっともう雪でしょう。きょう毛のシャツ、下シャツ等をお送りいたします。呉々もお大切に。十二月の十日頃にお目にかかります。かぜを・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・文学団体が機関誌さえも順調に刊行できず、団体解散の理由を、直接治安維持法の暴力によるものと明言し得ないで、指導者と指導理論の批判に藉口するために汲々としている雰囲気の中で、小林多喜二全集刊行がどうして実現しよう。客観的にも主観的にも全集刊行・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・ さて一方社会主義的リアリズムも当時の日本の事情によって必ずしも順調に理解されたとは言えなかった。社会主義的リアリズムは、日本に紹介されたと同時に、その基本的な点で極めて特徴的な転調をされた。ある一部の紹介者は社会主義的リアリズムをもっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・その原因は決して簡単でないが、主な一つは、文学の前時代の骨格であった個人的な自我が、内外の事情から崩壊したのに、正常な展開の可能が自他の条件にかけていて、文学によりひろい歴史性をもたらす次の成長へ順調にのびられず、自身の存在の確信のよりどこ・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・ プロレタリア文学運動が順調に発展していたならば、今日、日本の新しい民主主義文学というものも、よほどちがった明るさに照らされたろう。ところが日本の支配階級が、大衆の進歩性を抑圧することは実に烈しく、特に最近の十余年間は、全く軍事目的のた・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・私は過去の生活が割合に順調であった為めに、それから享容れた或る純真さはあったかも知れないが、他面に於て前に述べた伝統から享容れた欠点のある事も否めない事実であるから、これからは一切の不純な気持、身に附き添った色々なこだわりから離脱し、創作境・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・十六万人の馘首は、下山氏の事件によってさわがしく、ものみだかく不安にさせられている社会の空気のなかで、「順調」に行われるのである。馘首と生活不安に直面している国鉄数十万の従業員そのものの関心の半ばが、きょうもあすもと推理の種をひろげる下山事・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
出典:青空文庫