・・・と差付ける狐を見ると、鳶口で打割られた頭蓋と、喰いしばった牙の間から、どろどろした生血の雪に滴る有様。私は覚えず柔い母親の小袖のかげにその顔を蔽いかくした。 さて、午過ぎからは、家中大酒盛をやる事になったが、生憎とこの大雪で、魚屋は河岸・・・ 永井荷風 「狐」
・・・形の光りの細胞は舞上り舞下りて闇黒の中に無形の譜を作りて死を讚美し祝し―― おどり狂う――大鎌をうちふりうちふりてなぎたおされんものをあさりつつ死は音もなく歩み頭蓋の縫目より呪文をとなえ底なき瞳は・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・有名なイタリーの犯罪心理学者であったロンブロゾーは、人間の頭蓋骨の発達の型や、顔面の角度の関係やらを統計して今日でも適用されている所謂犯罪型という一タイプを規定した。更に彼はこれらの先天的に犯罪型の頭蓋をもって生れ、何か犯罪をやって現に拘禁・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫