・・・夕方まで骨を折って、足の裏が痛くなるほど川ん中をあっちへ行ったりこっちへ行ったりしたけれども、とうとう一尾も釣れずに家へ帰ると、サア怒られた怒られた、こん畜生こん畜生と百ばかりも怒鳴られて、香魚や山やまめは釣れないにしても雑魚位釣れない奴が・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・ そこで砥石に水が張られすっすと払われ、秋の香魚の腹にあるような青い紋がもう刃物の鋼にあらわれました。 ひばりはいつか空にのぼって行ってチーチクチーチクやり出します。高い処で風がどんどん吹きはじめ雲はだんだん融けていっていつかすっか・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・そこではすべてが善意と礼儀ぶかさからとり行われ、京都からの生香魚料理万端よろしいのであるが、有三氏は、どちらかというと片苦しげに想像される客間での会話で、この麗わしき天然の日本では、彼自身の長篇小説が数年前朝日新聞へ続載不可能となったことが・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
出典:青空文庫