・・・ 人間は自然を征服し自然を駆使していると思っている。しかし自然があばれだすと手がつけられないことを忘れがちである。全国至るところにある発電所の堰堤のどれかが、たとえば大地震のためにこわれたら、その時には人間の弱さがはっきりわかるであろう・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・は目も耳も指も切り取って、あらゆる外界との出入り口をふさいで、そうして、ただ、生きていることと、考えることとだけで科学を追究し、自然を駆使することができるのではないかという空想さえいだかせられる恐れがある。しかし、それがただの夢であることは・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・のテクニークに通暁しているばかりでなく、その対象に関する十分な知識をもっていることが絶対に必要である。それかといって単なる学者では勿論駄目である。「映像の言葉」の駆使に熟達した映画監督の資格を同時に具えていなければならない。そういう人はなか・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・従って世間からうるさく取りすがられ駆使される事なしに、そっとして構わないでおいてもらう事に最大の幸福を感ずるたちの人ではなかろうかと想像される。こういう型の学者があるとすれば、それを世間が本当に尊重するつもりなら、やはりはたから構わないで自・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかし同じ源から出たエネルギーはせち辛い東京市民に駆使される時に苦しい唸き声を出し、いらだたしい火花を出しながら駆使者の頭上に黒い呪を投げている。 科学の示す可能の範囲は多くの人の予想以外に広いものである。それにもかかわらず現代の応用科・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・ この潜在意識によるモンタージュの方法は連俳において最も顕著に有効に駆使せられる。連句付け合わせの付け心は薄月夜に梅のにおえるごとくあるべしというのはまさにこれをさすのである。におい、響き、移り、おもかげ、位、景色などというのも畢竟はこ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・そうだとすればこれらの人々を駆使している家主が責任を負わなければなるまい。しかし中には暇はあっても不精であったり、またわざわざ出かけるよりも室の片すみで茶をのんだりカルタでもやるほうがいいという人があるならばそれはその人々の勝手である。・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・しかし映画監督がそういう魔術を日常駆使しているのは周知の事実であろう。 トーキー製作の監督者は、要するに人間の目と耳とを品玉とする魔術師である。従ってこれらの感官に関する充分な分析的な研究を基礎としてその上に彼らの芸術を最も有効に建設す・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・智能と資本とを縦横に駆使して、イギリスの良品高価に対する良品廉価生産・高賃銀低コストを目ざす科学主義工業という呼び名が、これらの人々によって、資本主義工業の弱点を補強したものとして提唱されつつあるのである。 大河内氏の著書は、鶏小舎を改・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・最高の機械と技術とが駆使されていることは明らかなのだが、ヴォルフの製作の一つ一つの態度は、それらの道具を駆使する感興というような末梢から遙にぬきんでている。私を一番感動させたのは、制作者としてヴォルフがもっているひろやかで瑞々しく複雑な情緒・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
出典:青空文庫