・・・だらけのだらしのない弟子たちに対して、真の慈父のような寛容をもって臨み、そうしてどこまでも懇切にめんどうを見てやるのに少しも骨身を惜しまれなかったように見える。自分がだらしがなくて、人には正確を要求する十人並みの人間のすることとは全く反対で・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・そうして骨身を惜しむ事を知らないし、油を売る事をしらなかったせいであろう。 自分は彼女の忠実さに迷惑を感ずる事も少なくなかった。かまわないで打っちゃっておいてもらいたい事を決してそうはしてくれなかった。つまり二つの種類のちがったイーゴイ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ 数千年来このような純日本的気候感覚の骨身にしみ込んだ日本人が、これらのものをふり捨てようとしてもなかなか容易にはふりすてられないのである。昔から時々入り込んで来たシナやインドの文化でも宗教でも、いつのまにか俳諧の季題になってしまう。涼・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・ わかるばかりでなく、若い彼等のもっている曇らざる率直さ、科学への関心、健康な意志と、骨身について育っている集団性、国際感情などを、自分のものとして再現する実感が果して幾人の作家にあるだろうか? 国内戦の時代にくらべれば、革命後十年を経・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・「そこで骨身をけずる修業をした。」「そして老舗となる素地を蓄えたのである」「戦後のハッタリ精神とヤミの没落は文学の面でも象徴的であった」火野葦平は文学に対する同人雑誌の任務、出版関係が「昔にかえった」ことを慶祝している。 戦後の出版界の・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・「戦争の災禍が骨身に徹しており、かつ個人の精神的物質的幸福を無視することが、どのような結果をもたらすかを十分経験した日本人は、これらの熱望に共感するであろう」と。わたしたちはこの言葉を、生活の実際について理解し、平和について語り、平和のため・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・寝台の上に真蒼になって息をきらしながら、なお仕事を捨てないフロレンスを見て彼女が骨身を惜んでいるといえる者は一人もないのであった。「病院に関する覚書」が出て、その方面に根本的改革をもたらしたのは一八五九年のことであった。その翌年にはナイ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・中本さんらしい骨身を惜しまなさが感じられるのである。「白衣作業」もその一つの作品である。これまで、こういう題材が婦人作家にとりあげられたことはなかった。そしてこの作者らしい力をこめた感情の緊張で全篇が貫かれている。 菊池寛氏が東日の「廻・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そこによりたやすい血路を求めて、真の骨身を削る煩悶とそこからの脱皮とを経ないですました文学的な諸因子が、国民文学の提唱にあたって、果して、新しい文学の実体としての国民の生活諸々相をリアルななりに作品の世界に把握し再現してゆき得るものであろう・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・去年から度々危機突破資金をとっても、決してそれは、気ちがいじみた物価に追いつかない苦しさで、骨身にしみてわかっています。 また、女子と男子と同一の労働にたいしては同一の賃金を! と云っています。これも、一家の柱となって働いている婦人の多・・・ 宮本百合子 「メーデーと婦人の生活」
出典:青空文庫